ダイナミック・ケイパビリティ論をめぐる
2つの問題

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デイビッド J.ティースをいまも悩ませているダイナミック・ケイパビリティ論をめぐる問題が2つある。しかもそれらは経営学者からの批判に基づいている。今回はその詳細を取り上げ、それでもなおダイナミック・ケイパビリティ論が日本企業にとって有用なものであることを説明したい。

衝撃的な論文

 ダイナミック・ケイパビリティ論の研究は、これまで順風満帆できたわけではない。実は、今日、非常に重要な学問的問題に迫られている。これに気づいているダイナミック・ケイパビリティ論の研究者は意外に少ない。

 私が2012年にバークレーに留学した時、デイビッド J.ティース教授の下で研究していたポスト・ドクターの学生から、2011年に『ストラテジック・マネジメント・ジャーナル』誌で発表されたコンスタンス E.ヘルファット教授とシドニー G.ウインター教授(*1)の論文を渡された。その内容は、私にとって衝撃的だった。

 その論文の内容は、従来から研究されていたオーディナリー・ケイパビリティとダイナミック・ケイパビリティの区別は不明確だ、というものだった。それが正しいならば、ダイナミック・ケイパビリティを独立して研究する必要はなく、それゆえ従来のケイパビリティ論で十分だということになる。

 しかし、ダイナミック・ケイパビリティ論の創始者の1人であるティース教授は、ダイナミック・ケイパビリティ論は従来のケイパビリティ論とは異なると考えている。それゆえ彼はこの論文を非常に気にしていた。そして、ダイナミック・ケイパビリティと従来のケイパビリティが異なることを証明するために、彼はひそかに未公開論文を準備していたのである。

 私は、ティース教授からその論文を受け取った。しかし残念ながらその論文は、ダイナミック・ケイパビリティにまつわる疑問に対して十分な解を示していないと思った。

 ティース教授をいまも悩ませている問題は何か。それは次の2つである。

<1> ヘルファット教授とウインター教授による批判

 ダイナミック・ケイパビリティの提唱者の1人であり、支持者でもあるヘルファット教授とウインター教授によると、従来から議論されているオーディナリー・ケイパビリティとダイナミック・ケイパビリティの区別があいまいだという。もし彼らの議論が正しいならば、独立した研究としてダイナミック・ケイパビリティを研究する必要はなく、従来のケイパビリティ論で十分だということになる。

<2>コリス教授による批判

 かなり前になるが、1994年に『ストラテジック・マネジメント・ジャーナル』誌で発表されたハーバード大学教授デイビット J.コリスの論文で提起された問題である(*2)。その内容はこうだ。
 オーディナリー・ケイパビリティをより低次の能力とし、その能力をも改革するより高次のメタ・ケイパビリティとしてダイナミック・ケイパビリティを区別するならば、企業は常にさらに優れたより高次のダイナミック・ケイパビリティを求めるので、メタ・ケイパビリティを追求し無限後退に導かれる。よって企業は究極的なダイナミック・ケイパビリティを得ることができない。

 ダイナミック・ケイパビリティ論をめぐるこれら2つの問題提起を詳しく見てみよう。

*1 Helfat, C. E., and Winter, S. G. (2011). Untangling Dynamic Capabilities and Ordinary Capabilities: Strategy for the (n) ever-changing world. Strategic Management Journal, 32: 1243-1250.

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