物事を構成する要素間の因果関係を考察する

問題解決の方法論〈1〉

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「課題設定とは何か」について、日本で起きている問題を5回にわたって取り上げた。経営学のセオリーやロジックツリー、MICEといった方法論だけでは解決策を導くことはできない。ではどうするか。どうすれば自身の方法論を導き出せるのだろうか。

スラム問題をMITで考える
2つのスラムを一緒にしてはいけない

――第2回で、ハーバード大学のグラデュエート・スクール・オブ・デザイン(GSD)のアーバン・デザイン学科に行ったけれども、まったく面白い授業がなかったという話をうかがいました。さて困ったと、問題発生ですね。そこで、どうされたのですか?

 仕方ないので、MITの講義を聞きにいきました。多分、今もそうだろうと思いますが、当時は、二つの大学の学生はお互い自由に行き来をして講義を聞くことができたんです。

横山禎徳
東京大学EMP 特任教授

 MITでは、実に印象深い授業に出会うことができました。1つは、イギリス人建築家のウィリアム・ターナーの授業。もう1つは、ジェイ・フォレスターが開発したシステム・ダイナミクスの授業。当時は、フォレスター教授の跡を継いだエドワード・ロバーツという人が教えていました。

 この2つの授業が、その後、社会システム・デザインの考え方に結びついていきます。

 ウィリアム・ターナーは、世界銀行のアドバイザーを務めた人で、低開発国への援助に関して、コペルニクス的転換をもたらしたといわれていました。彼は、都市化の裏側で広がるスラムの問題を調査して、その劣悪な住環境を改善するには何をすべきか、画期的なアイデアを世界銀行に提言しました。

――スラムをなくすための政策ということでしょうか。

 そうです。それまで世銀が進めてきた援助は、スラムを強制的に撤去して、道路などを整備してきれいな普通の街をつくる、という方針で進められていました。こうした援助政策の背後には、スラムは健全な都市形成にとって「よくないもの」であるから、「なくすべき」であるという、中産階級価値判断があるわけです。

 これに対して、ウィリアム・ターナーは、スラムにも2種類あると言ったのです。「スラム・オブ・ディスペアー」(slam of despair)と「スラム・オブ・ホープ」(slam of hope)です。

 前者は、もう一生自分はここから抜け出せないという人々の絶望的なスラム、当時、人種差別の強かったアメリカの多くのスラムはこちらだったでしょう。一方、発展途上国のスラムは、そうではない。いまたまたま自分はここにいるけれども、職を見つけてもっと生活を向上させようという人々の希望のあるスラムだというのです。

――それらを同じように扱ってはいけないというのですね。

 途上国のスラムに対しては、そこに住む人々が将来に希望を持っているということを意識した政策が必要なのであって、住民を無理矢理退去させて、標準設計による道路、住宅をつくるという当時の伝統的なやり方ではなく、住民を退去させないで、彼らの向上心を刺激して、住民が主体的に街の改善に参加できるようなシステムを提供していくほうが、結果として地域のためになる援助を行うことができると主張しました。

 彼は、カラカス(ベネズエラの首都)、ナイロビ(ケニア共和国の首都)、マニラ(フィリピンの首都)のスラムを調査して、すべてが同じスラムではなく、それぞれに特徴があることを指摘し、それぞれの状況に適したシステム、仕組みをつくることを主張しました。

 不法占拠と言って住民を追い払うのではなく、住民に土地所有権を与えてそのまま住まわせ、彼らの自主性が発揮されるような施策を考えるべきであると言ったのです。家の壁を自分で建てた人には、その自助努力を評価して、屋根を乗せるために必要な資金をローンとして貸すといった施策を実施すべきだという発想でした。

 世界各地の膨大なスラム問題が、すべてこの方法で改善されるとは考えられませんが、そこに住む人たちが、住環境を自分たちで改善しようとする意欲を高める方向に導くことが、スラムの改善につながるというターナーの考え方は、当時の私にとってとても印象的でした。優れた発想だなあと思いましたね。それで彼の講義を熱心に聞き、ケニアのナイロビにあるスラムの改善策を期末のペーパーとして提出したことを覚えています。

――横山さんの社会システム・デザインの考え方に通じるものがありそうですね。スラム問題を、国や地域の事情を考慮せずどこもかしこも一緒くたに考えるのではなく、場合分けをして、それぞれに課題設定をして、中核課題を見つけなければならないということですね。

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