日本企業の空虚な顧客主義

動的コミュニケーションがもたらすもの

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前回は日本企業の経営層がデジタルの世界観に付いていけないこと、彼らのデジタルの理解が浅薄なためにマーケティングがなかなか進化していかないことを述べた。本来、マーケティングの基本である顧客のインサイトを抽出し、彼らとの深いエンゲージを強く推進するデジタルを日本企業が十分に活用できていない根幹には、空虚な「顧客主義」があるのではないだろうか。

日本企業の実体の伴わない「顧客主義」

 日本企業の多くが掲げる「顧客主義」は、実体が伴わない空虚な掛け声だけになっている。

岡崎 恒
デロイト デジタル
エグゼクティブ ブランド
ストラテジスト

 我々が日本企業の経営層と話をすると、必ず「経営の全ては顧客のためにあり、うちの経営戦略のトッププライオリティは顧客である」と言う。本当にそうなのであろうか。「否」である。

 日本企業のほとんどが社是や基本理念、経営理念などの中で顧客の重要性を述べている。しかしながら、顧客とどう向き合いたいかという具体的な視点が全く感じられない。 どんなに手厚く顧客サービスを徹底しても、どの企業も同じに見え、その便益がどこから来ているのか顧客には実感できないのである。つまり、顧客主義とは言いながら、教科書のように正しくても空虚な概念論だけで語られおり、企業の「人間性が感じられる顔」が見えないのである。

 我々は、真の顧客主義は自らの「顔」を定義することから始まると考える。「ブランドアイデンティティ」の発想である。自らが何者で、何を目指し、どういう価値を誰に提供したいのか、そして顧客に何を便益として約束するかが「ブランドアイデンティティ」であり、企業の顧客主義の起点になくてはならないものである。日本企業にはその発想が根本的に欠如している。デジタル活用を論じる以前の大きな課題がそこに存在しているのである。

 前回、デジタル世代は企業との人間的な会話を欲しており、デジタルを通して、パーソナルで、自分を1人の人格として認めてくれる人間臭いコミュニケーションを企業に求めていると説明した。そのようなコミュニケーションは、まず企業側が顔を持ち、どんな事を考えているのかを明確にしなければ始まらない。しかしながら現状の日本企業の顔のない実態を見ると、彼らと会話が成立するとは到底考えられない。

真の「顧客主義」から見えてくる景色

 日本企業のマーケティングは機能価値の優位性を声高に訴える「プロダクトアウト」の発想が中心である。顧客にその商品をどう使って欲しいか、何を便益として感じて欲しいかという視点がなく、どれもが同じに見える商品価値訴求になっている。つまり開発された商品が前提にあり、短期間に如何に効率よく売るかがマーケティングの主な役割として考えられているのである。

 ゆえにデジタルの活用は商品の機能が競合商品とどう違うかを認知、理解させることに主眼が置かれ、「これが可能です、こんな特長があります」と一方的に押し付けるものになっている。企業の顔を感じ、率直な会話を欲するデジタル世代に対し、押し付けのコミュニケーションをしている限り、顧客の興味を醸成できるはずもない。

 自らの顔を定義し、提供価値を具体的に顧客に示すと、マーケティングの景色が大きく変化する。企業自身が何者であるかを示し、どういうことに興味があるのか、どういうことに悩んでいるのか、どんな会話をしたいのかが見え、もっと自らを知って欲しいという意思が感じられれば、顧客も本音で応えてくれるに違いない。つまり、顧客との真の「エンゲージ」が始まり、彼らの心の奥にある「インサイト」を感じることができるのである。それによって何が可能になるのだろうか。

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