オリンピックがもたらす
都市イノベーションの可能性

【特別対談1】白井宏昌(建築家、滋賀県立大学環境科学部准教授)

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企業のCSVイノベーション活動において、“都市”が重要なキーワードとなってきた。都市が有する社会課題の解決を、都市開発段階からトライセクターで仕掛けることで、企業単独では生み出しようがないイノベーションを目指すという考え方である。2020年の東京オリンピックは、まさに東京あるいは日本全体が抱える社会課題の抜本的解決と、イノベーティブな課題解決モデルの世界への提唱を仕掛ける、またとないチャンスだ。そこで、ビジネスやイノベーションにも造詣の深い白井宏昌氏に、オリンピックを契機とした都市イノベーションの可能性を聞いた。

「オリンピック・レガシー」でますます注目される
都市のサステナビリティ

藤井 2020年東京オリンピック・パラリンピックに向けて、東京および周辺各地区で大規模な再開発が進められつつありますが、そのような中で「オリンピック・レガシー」という言葉をよく耳にするようになりました。社会課題を解決するきっかけとしてのオリンピックと捉えると、オリンピック・レガシーという考え方の重要性が再認識されます。

白井宏昌
建築家、H2Rアーキテクツ協働主宰
滋賀県立大学環境科学部 准教授

ロンドン大学政治経済学院都市研究科博士課程より「オリンピックと都市」で博士号取得。国際オリンピック委員会(IOC)助成研究員、ロンドンオリンピックパークの設計チームメンバーを歴任。

 もともと白井さんとは、まさにこの「オリンピック・レガシー」を考えるフォーラムで、お互い登壇者として参加してから意気投合し、お付き合いをさせていただくようになりましたので、まずは、オリンピックが、レガシーを意識するようになった経緯や転換点から伺いたいと思います。

白井 オリンピック・レガシーという言葉は、1990年代後半から学者の間で使われ始めたのですが、当初はオリンピックで建てられた施設の後利用に代表されるような「負の遺産」として、比較的ネガティブなイメージで使用されていました。それが今のようにポジティブな意味を持つようになったのは、2000年以降、IOCも、オリンピックと世界的潮流になりつつあった「サステナビリティ」の概念を結び付けるようになり、オリンピック開催を通じて、都市の環境、経済、社会の持続的発展が語られるようになってきた背景があります。

藤井 従来は、オリンピック開催に向けて何をするか、ということに注力してきたのに対し、昨今では、オリンピック後に何を残すか、そのためにオリンピックを通してどのような社会課題解決を仕掛けるか、にシフトしてきたといえます。

白井 今やレガシーとサステナビリティは一体となって考えられています。そこに大きな影響を与えたのが、2001年にサマランチ氏から会長の座を引き継いだジャック・ロゲ氏です。イベントの拡大と収益の確保に長けたサマランチ氏と異なり、ロゲ氏はオリンピックが都市に与える影響を重要視し、オリンピック憲章にレガシーに関する項目を盛り込みました。

藤井 剛
デロイト トーマツ コンサルティング
パートナー

幅広い業種の日本企業において、「成長創出」「イノベーション」を基軸に、成長戦略の策定、社会課題を起点にした新事業創造等のコンサルティングに従事。主な著書に『Creating Shared Value : CSV時代のイノベーション戦略』。

藤井 オリンピック・レガシーの活用に成功している事例としては、どの都市が挙げられますか。

白井 100年に及ぶオリンピック都市の歴史を振り返ってみると、1992年のバルセロナオリンピックが、レガシーの意味合いを変えるきっかけとなった事例といえます。
 まず、オリンピックの開催により、バルセロナという都市のイメージが圧倒的に変わりました。バルセロナオリンピックでは、海岸沿いの荒廃した工業地域に選手村を建設し、美しい海岸線の景観を復活させ、地中海都市のイメージを世界に発信しました。
 さらには、オリンピックを戦略的に都市計画に活用し、オリンピック後も続く仕組みを作ったのです。現在選手村は一般向け住居に転用されており、計画的な企業誘致の結果、リサーチセンター、IT等の先端産業拠点が街の中につくられ、海外からも人材が集まるようになりました。現在でも、クリエイティブ産業を中核に据えた都市開発が継続して進められています。

藤井 バルセロナ市は、都市開発の基本設計を、オリンピックを契機とした長期プランに組み込んでいたということですね。

白井 その通りです。結果として、バルセロナ市は、1999年にRIBA(Royal Institute of British Architects, 王立英国建築家協会)より、都市として初めてゴールドメダルを受賞しています。RIBAは約180年の歴史があり、過去、建築分野において際立った功績を残した“建築家”を表彰してきていますが、RIBAのゴールドメダルが都市に対して送られたのは、後にも先にもバルセロナ市だけです。それほどにまでバルセロナは、都市開発の分野において大きなインパクトを与えています。

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