簡単に「試せる」時代の落とし穴:
アクションを起こす前に考えるべきこと

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新規アイデアを形にするプロセスは、部品の低価格化やクラウドソーシングによってますます容易になっている。しかし、それが「思慮不足」という弊害を招くこともある。アンソニーが自身の失敗を教訓に、市場投入前に考慮すべきチェックリストを示す。

 

 数年前、我々はある新規事業のアイデアを思いついた。同僚が飲食店を経営していたのだが、店にある高価な酒が頻繁に所在不明となり、被害額の多さに悩んでいた(盗難などによる在庫減少を業界用語で「シュリンケージ」という)。この問題に悩む飲食店の数は膨大だ。つまり大きな市場がある。そこで我々は、優秀なイノベーターと同じように、この同僚の悩みを解決すべく酒の自動在庫管理システムを構築しようとした。

 RFID技術を持つシンガポールの企業と提携した我々は、酒のボトルに付けるRFIDタグ、その情報を読み取れる保管ラック、専用の管理ソフトウェアの3つを柱とするソリューションの開発に着手した。経営者はこのシステムによってリアルタイムの在庫情報を把握でき、シュリンケージを早期に発見できるはずだ。そして保管ラック付近の壁に監視カメラを設置すれば、ボトルが取り出される瞬間が見えるため強力な盗難抑止となる。店内のフロアでもタグが読み取られるため、ボトルが保管ラックから取り出されても店内で客に提供されない場合、ソフトウェアが自動的に警告を出すことができる。

 我々は資金を費やしながらソリューションを繰り返し検証していくうちに、これまで誰もこの明らかな事業機会に取り組んでこなかった理由を徐々に理解し始めた。まず、タグ、保管ラック、ソフトウェアの3つをうまく連動させることが技術的に難しかった。さらに、バーテンダーはただでさえ忙しいのに、新しいボトルをラックに入れる前にスキャンしなければならず、仕事のわずらわしさが増えてしまう。全米中の飲食店で利用されている多種多様な在庫管理システムに、我々のシステムを統合するのも困難であった。

 ようやくプロトタイプを完成させ、顧客に披露したが、この高価な製品に投資することを躊躇する経営者が多かった。そんなことをしなくとも、個人のコンサルタントに頼めばシュリンケージ対策のアドバイスを得られるからだ。そして2009年、我々は事業から手を引くことにした。

 この失敗は、今日のイノベーターが直面する見えざる課題を浮き彫りにしている。シンプルかつ安価な方法でイノベーションに取り組めるようになったため、思慮を欠いたままとにかく行動してしまう、という弊害だ。

 もちろん、我々はまったく費用をかけずに事業を始めたわけではない。だがインドの設計者と安価で契約し、RFID技術をすでに実用化しているシンガポール企業と提携し、既存のソフトウェアを活用し、最初の試作品を比較的短期間で安く開発できた。

 それから約10年後の今日、こうした事業を始めるコストはいっそう下がっている。ある起業家がこれからコンピュータ関連のハードウェア製品事業を始める場合を想像してみよう。アマゾンウェブサービスからコンピューティング機能を借り、人材プラットフォームのイーランスを通じて優れた設計者を見つけることができる。GitHubを利用して短期間でソフトウェア開発ができ、グーグルやフェイスブックにターゲット広告を掲載し、多くの製造受託業者を活用できる。事業規模の拡大にはこれまで通り多大な努力も投資も必要となるが、ソリューションの最初のバージョンを開発して初期購入者にリーチするための費用は、従来よりもずっと少なくて済む。

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