記録と記憶は異なる――
大きく変化する生活者の日常を捉える

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TV、パソコン、スマートフォン……我々は日常生活のなかで多様なメディアを駆使して情報を得ている。しかし、それらを横断した情報を収集することは、これまで技術やコスト面で困難だった。「シングルソースパネル」手法を用いれば、クロスメディアで生活者の現実が見えてくる。それはマーケターに、仮説の修正を迫るものかもしれない。グーグルのマーケティングチームが日本において実践する取り組みを紹介しつつ、新たな時代のマーケティングのあり方を提案する連載、第2回。

 

 かつて生活者の情報環境とは、いわゆるマスメディアからの情報受信がメインであり、ニュースも娯楽も、そして企業からの情報もそこから得ていた。情報を提供する側と提供される側が明確に区分けされ、生活者はそこで得た情報をもとに、自らの考えを構築し、他者と共有し、行動を決定していた。そのため、マーケターは情報メディアが生活者に対して所与のものであり、それは3年前も3年後も変わらないものとして考えることができた。

 しかし現在、情報環境のデジタル化が進み、生活者の情報経路は刻々と変化している。たった2年前にメディアによって喧伝され、実際に多くの生活者が利用したサービスのいくつかは今は見る影もない、といったことが日常的に起きている。新しいメディアが日々生まれ、その多くは、一般の人に名前を覚えられる前に消えていく。

 このような時代に、かつてのように固定化された情報環境を前提としたマーケティング戦略立案は不可能であり、マーケターにとって、この生活者の複雑な環境変化をいかに先んじて正確に理解し、活用できるかが非常に重要な要件となっている。今回は、グーグルマーケットインサイト(注1)を例に見ていこう。

情報環境を正確にとらえる
「シングルソースパネル」アプローチ

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小林 伸一郎
(こばやし・しんいちろう)

グーグル株式会社マーケットインサイトチーム 統括部長
慶應義塾大学を卒業後、電機メーカーにエンジニアとして入社。後に広告会社に転じ、メディアのデジタル化に伴う広告ビジネスの変化についての研究、及び、メディアプランニングのためのツール開発に従事。2011年グーグル株式会社に入社し、クロスメディア環境における広告効果測定のための手法を開発。日本及び、アジア太平洋地域に展開するグローバル企業に対して同手法を展開。

 多様化する情報環境ををより正確に把握するために必要なのは、ビッグデータ分析だろうか?それともエスノグラフィ(行動観察)のような定性調査だろうか?どちらも重要な手法であるが、情報環境の多様性そのものを理解するには、現時点では限定的といえる。

「シングルソースパネル」という手法では、生活者が実際にとったファクトベースの行動ログデータを蓄積・分析し、その多様性を明らかにしている。人がどの様にテレビやパソコンやスマートフォンから情報を得ているのかを、アンケートではなく記録(=ログ)から判断し、生活者像を明らかにしていくものだ。(注2)

 例えば、ある30代の男性会社員が朝、TVでニュースを見て、通勤中にモバイルでSNSをチェックし、昼休みに口コミサイトで歓迎会の店の場所を確認し、帰宅後に録画したドラマを見るという一連の動きを把握でき、この行動ログデータを集計に適した情報として集めたものが、シングルソースパネルとなる。

 もちろん、これまでもTVやオンラインの接触データは存在していたが、メディアやデバイスごとに分かれており、横断した集計ができなかった。例えば、ある広告をTVでだけ見た人、YouTubeでだけ見た人、そして、TVとYouTube両方で見た人に分ける程度のことすらできなかった。シングルソースデータであれば可能である。なお、このデータはグーグル内部のデータではなく、一般の調査会社が提供しているため、誰でも活用できる。

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