2020年に向けて日本のソーシャルセクターは離陸するか

【特別対談2】小沼大地(NPO法人クロスフィールズ 共同創業者・代表理事)

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NPO法人クロスフィールズの共同創業者・代表理事として活躍する小沼大地氏を迎え、社会課題解決型の新事業創造とそのビジョンについて聞く特別対談2回目は、ビジネスセクター(企業)・パブリックセクター(政府/自治体等)・ソーシャルセクター(NPO/NGO等)の連携によるイノベーションにおいて、日本での存在感が高まるソーシャルセクターについて考察する。 

日本のソーシャルセクターの存在感

藤井前回は、ビジネスセクター(企業)とソーシャルセクター(NPO/NGO等)の連携による社会課題解決を起点としたイノベーション創出の在り方について議論しました。しかしながらこの発想は、日本企業ではあまり浸透していません。というのも、日本ではソーシャルセクターの存在感が、他の2つのセクターよりも薄いようです。

小沼大地
NPO法人クロスフィールズ
共同創業者・代表理事

一橋大学社会学部・同大学院社会学研究科修了。青年海外協力隊(中東シリア・環境教育)に参加後、マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。同社では人材育成領域を専門とし、国内外の小売・製薬業界を中心とした全社改革プロジェクトなどに携わる。2011年3月、NPO法人クロスフィールズ設立のため独立。世界経済フォーラム(ダボス会議)のGlobal Shapers Community(GSC)に2011年より選出。

小沼 確かに、欧米諸国と比較すると、日本でソーシャルセクターの存在感が発揮されるのは、まだまだこれからというのは否めないでしょう。ただし、現状を悲観するのではなく、「ソーシャルセクターは今まさに途上にあり、今後のポテンシャルは非常に大きい」と捉えるべきだと考えます。

藤井 日本のソーシャルセクターが欧米より遅れているように見える背景として、宗教的習慣に基づく寄付文化が形成されにくいことを挙げる方がいらっしゃいますね。海外の有力NPOの多くが寄付により成り立っているが、宗教的バックグラウンドがない日本で同様の規模の寄付を集めることは困難という文脈です。
 仮にそうだとすると、日本におけるソーシャルセクターの発展はそもそも難しいということになります。果たしてそうでしょうか。

小沼 欧米と比較して、現時点でソーシャルセクターへのリソースの集積度が圧倒的に異なっていることは間違いありません。特に資金の集積に関しては、寄付文化が確立していないことは1つの要因でしょう。しかし、「日本では宗教的に寄付文化が根付きにくい」という一側面だけであきらめるべきではないとも思います。

藤井 先日、ガンバ大阪のホームとなるスタジアムが「みんなの寄付で作るスタジアム」という掛け声の下、法人も含めて140億円近い寄付を集めたことで話題になりました。一部の宗教観における”施し”的な発想ではなく、共感を得られる目的や大義があれば日本においても寄付による資金集めのポテンシャルはあるかもしれませんね。

小沼 ガンバ大阪の例は、まさにポテンシャルを顕在化させたものだと思います。さらに日本のソーシャルセクターがこれまで十分に発展してこなかった理由を深く考えると、実はそこには、「優れたパブリックセクターの存在」があったのではないか、というのが個人的な意見です。

藤井 剛
デロイト トーマツ コンサルティング
パートナー

電機、自動車、航空、消費財、ヘルスケアなど幅広い業種の日本企業において、「成長創出」「イノベーション」を基軸に、成長戦略の策定や新規事業開発、海外市場展開、組織・オペレーション改革等のコンサルティングに従事。社会課題を起点にした新事業創造や、地方自治体・複数企業を核とした地域産業創造に多くの経験を有する。主な著書に『Creating Shared Value : CSV時代のイノベーション戦略』。その他著書、メディアへの寄稿、セミナー講演多数。

藤井 トライセクターを社会構造的に捉える、といったバランスの観点は重要ですね。

小沼 米国を見てみると、そもそもパブリックセクターの機能が伝統的に弱いため、相対的にソーシャルセクターへの期待が高まったという構造的要因があります。たとえば、公共の設備に不具合が起きたりしてもパブリックセクターを頼らず、地域コミュニティ主導でカンパを集めて課題解決していこうという動きがボトムアップで起こり、その集合体としてNPOが形成されていった、といわれています。

藤井 英国でも、ソーシャルセクターが発展したきっかけは、1980年代サッチャー政権による「小さな政府」の政策にあるようです。実は近年では新興国においても力のあるNPOが生まれ、ソーシャルセクターが大きく発展してきています。

小沼 ところが日本の場合、もともと公共サービスが素晴らしく整っている。たとえば少し道路の舗装が悪くなっているだけでも「お上は何をやっているんだ」となってしまうほど、市民レベルでのパブリックセクターへの依存度が高いのです。このように「社会課題の解決はパブリックセクターの仕事」という認識が強いため、日本ではNPOのような組織が発展する必然性がなかった、というのがこれまでの世界観ではないかと見ています。無論、この状況は急速に変わってきているわけですが。

藤井 確かにその一面はあるでしょう。CSVやトライセクターイノベーションへの期待が高まっている背景にも、世界的な社会課題の規模が拡大し、複雑さが深まる中で、パブリックセクターによる解決能力が衰えているという構造的トレンドがあると捉えられますね。

小沼 今や日本においても、パブリックセクターがすべてを担っていくという構造は、急速な社会課題の複雑化・多様化や財政面での課題を考えれば、とうに限界を迎えています。実際ここ数年の間に、従来はパブリックセクターが担ってきたことを、ソーシャルセクターが担うようになるケースが増えてきていると感じます。
 こうしたことが、ソーシャルセクター自身が産業として発展していく転換点になるのではないでしょうか。

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