コンセプトとテーマがぶれていなければ、
ボツの企画が宝の山に変わるときがくる
――ガンホー・オンライン・エンターテイメント代表取締役社長CEO・森下一喜

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国内累計3500万ダウンロード突破の大ヒットゲーム、「パズル&ドラゴンズ(パズドラ)」を生み出したガンホー・オンライン・エンターテイメントで代表取締役社長CEOを務める森下一喜氏。ゲームデザインを専門的に学んだ経験がないにもかかわらず、なぜ森下氏はおもしろいゲームをつくり出せるのか。1つのゲームができるまでの過程を掘り下げるなかで、ものづくりの本質が語られる。(崎谷実穂/構成、引地信彦/写真)
 

苦手を克服するより、
得意なことで突き抜ける

――現在は、CEOと現場の統括を兼任されているというお話でしたが、ゲーム開発にどのように関わっているのか、具体的に教えてください。

森下一喜(以下略) 僕は、現場のラインの状況や、メンバーの得意不得意もかなり把握できていると思います。プログラマのなかには、コードを書くのが速い人もいれば、作業は遅いけど細かく丁寧にコードを書ける人もいる。仕様書を書かせたほうがいい人もいれば、書かせないほうがいい人もいます。このメンバーとこのメンバーは合わないな、などもわかっているので、そのうえでチーム編成をします。

 プロジェクトのはじめは、自分ともう1人という2人体制、多くても3人で始めることが多いです。まず、僕がコンセプトを考えます。そして、このプロジェクトにAさんが欲しいと思ったら、Aさんに企画の内容をさり気なく話します。

 たとえば、Aさんが参加する別のゲームの会議中に「実は、このゲームとは全然関係ないんだけど、いま考えているコンセプトがあってね」と切り出す。すると、皆も「なんですか、それ」と聞いてくれますよね。そこで、Aさんの興味をそそるように、コンセプトをチラッと見せる(笑)。そうして、本人が前のめりになってきたら、「いまのゲームはここまで進んでいるから、Aさん以外の人に任せてもいいよね」と引っ張ってくるんです。

――「このプロジェクトに○○さんを任命します」という格式張った感じはまったくありませんね。

森下一喜(もりした・かずき)
ガンホー・オンライン・エンターテイメント 代表取締役社長CEO
1973年、新潟県生まれ。高校卒業後、アルバイトで生計を立てながら漫才師として活動するも3年で解散。1996年にソフトウェア開発会社に就職し、2000年にオンラインゲームをつくるため起業。2001年にその会社を解散し、その後、2002年にガンホー・オンライン・エンターテイメントとして、現事業を開始。MMORPG「ラグナロクオンライン」の日本国内における独占的運営権を獲得し、会社は急成長。2005年にはヘラクレス市場に上場を果たす。その後はオリジナルのゲーム開発でもヒットタイトルを生み出し、2012年にサービスをスタートした「パズル&ドラゴンズ(パズドラ)」は国内3500万ダウンロードという異例の大ヒットとなった。

 ええ、気がついたらプロジェクトに参加していたというふうに誘導しています。ここをあまり説明すると、社員から「やっぱりそうだったのか」と言われそうですが(笑)。

――けっして、無理にやらせるわけではないのですね。

 最終的には、本人にも納得してプロジェクトに加わってもらいます。「やれ」と命令することはありません。ゲームというのは、1人ではつくれないんです。最初は1人で考えたとしても、最終的には皆のアイデアを盛り込んで改善していく。だから、コンセプトに対して「やってみたい」という気持ちがないと、いいものはできません。つくり手にやらされているという感じがあるものづくりは、最も良くないパターンです。

――たとえば、森下さんが一番手で考えていたAさんがそれほど乗り気ではなく、次点のBさんのほうがやる気があったら、Bさんに入ってもらったほうがいい。

 はい、絶対にやる気があるメンバーのほうがいいですね。うちは組織が縦割りで分かれていないので、困ったことがあったら、誰にでも聞きに行けます。チーム内で完結しない。Bさんから「この実装が難しい」と相談されたら、「Aさんに聞いてみな」とアドバイスする。そうして熱心に説明しているうちに、だんだんAさんもプロジェクトに興味をもってくれることがあります(笑)。

――部署ごとに壁がなく、横のつながりが強い組織なんですね。

 形式的に、僕が開発本部の本部長という立場で、その下に担当本部長がいますが、担当本部長が決まったメンバーを率いているわけではないんです。担当本部長は制作ラインをマネジメントする場合もありますが、そればかりをやっているわけでもない。言うなれば、「得意なことをやる本部長」という感じですね。

――担当本部長に任命されるための条件は何ですか。

 1つは「これはこの人にしかできない」という得意の部分を持っていること。もう1つは、自分の苦手なことを把握していて、得意な人とコミュニケーション取って、苦手な部分のサポートをお願いできること、ですね。

 苦手を克服しようとするのは、個人のパーソナリティとしてはムダではない、むしろ、よいことだと思います。ただ、会社組織として考えたら、苦手を克服するより得意なことを伸ばしてもらったほうがいい。人間の素質を伸ばすには、得意なことをとことんやらせて突き抜けさせるほういいですよ。そして、得意なことを見つけるには、業務の幅を狭めずに、いろいろやれる環境をつくったほうがいいと考えています。もしかしたら、まだ自分が気づいていない得意なことを、他の人が発見するかもしれませんからね。

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