本に書かれた“社長”を演じる必要はなかった
創作意欲が枯れるまでゲームをつくり続ける
――ガンホー・オンライン・エンターテイメント代表取締役社長CEO・森下一喜

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国内累計3500万ダウンロード突破の大ヒットゲーム、「パズル&ドラゴンズ(パズドラ)」を生み出したガンホー・オンライン・エンターテイメントで代表取締役社長CEOを務める森下一喜氏。会社が急成長を遂げるなかで、上場企業の“社長”を演じるようになった結果、会社は硬直化して官僚的な組織に変わってしまう。「おもしろいゲームをつくりたい」という原点に立ち返るべく現場復帰を決断した背景をはじめ、経営者であり開発者である森下氏の葛藤が語られる。前後編の全2回。(崎谷実穂/構成、引地信彦/写真)
 

慣れない“社長”を演じたことが
問題の始まりだった

――森下さんはいま、代表取締役社長CEOであると同時に、開発部門統括 エグゼクティブプロデューサーという肩書も持っています。これは、制作現場を統括していらっしゃるということでしょうか。

森下一喜(以下略) はい。基本的にすべてのタイトルに製作総指揮という立場で関わっています。2005年の上場の少し前から、一度現場から離れたことがありました。そのときに会社がうまくいかなくなったので、2010年に現場に戻り、いまの体制になりました。

――そのときは、なぜ現場から離れたのでしょう。

 上場準備をするなかで、いわゆる“社長”というものを演じなければいけないと思ってしまったんですよね。会社も大きくなってきたし、自分は経営に専念しないといけないのかなと。誰に言われたわけでもないのですが、ビジネス書によく書いてあることを真似てみたんですよね(笑)。そうしたら、この会社が何を目指していて、自分たちはどうありたいのかという本質を見失ってしまいました。

――現場に仕事を任せるという点は、けっして悪い施策ではないと思いますが。

森下一喜(もりした・かずき)
ガンホー・オンライン・エンターテイメント 代表取締役社長CEO
1973年、新潟県生まれ。高校卒業後、アルバイトで生計を立てながら漫才師として活動するも3年で解散。1996年にソフトウェア開発会社に就職し、2000年にオンラインゲームをつくるため起業。2001年にその会社を解散し、その後、2002年にガンホー・オンライン・エンターテイメントとして、現事業を開始。MMORPG「ラグナロクオンライン」の日本国内における独占的運営権を獲得し、会社は急成長。2005年にはヘラクレス市場に上場を果たす。その後はオリジナルのゲーム開発でもヒットタイトルを生み出し、2012年にサービスをスタートした「パズル&ドラゴンズ(パズドラ)」は国内3500万ダウンロードという異例の大ヒットとなった。

 もちろんそうです。でも、何も教えないままパッと手を離してしまったのは間違いでした。現場の失敗というよりは、自分のやり方がまずかったと思っています。自分がどういう思想や哲学を持ってゲームをつくり、サービスを提供しているのかという根本の部分を伝えていなかったんです。それでは社員も、どうやっていけばいいかわかりませんよね。

 結果として、どんどん組織が硬直化していきました。お役所的というか、官僚的というか、1人ひとりの役割分担もどんどん細分化されて、自分に任された範囲以外のことは一切やらない組織になってしまったんです。範囲外のことをやったり、口を出したりすると怒られると考えて、社員みんなが萎縮するようになりました。

――経営に専念されていながら、現場の硬直した空気を同時に感じ取られていたんですね。

 手を離した時から、うまくいっていないなとは思っていました。たとえば、取締役会であるサービスをリリースするための報告があると、それを進める理由に「リスクがないから」という言葉が入ってきます。「あ、そこでリスクの話をしてしまうんだ」と思いました。本来は、おもしろいかどうかで判断すべきところにもかかわらず、です。

 担当者に「これ、おもしろいと思ってるの?」と聞くと、その場では「おもしろい」と答えます。でも、あとでこっそり本音を聞くと「全然おもしろくありません。でも、上司に『やれ』って言われたので……」と答えるんですよ。あらゆることについて、根回しして、手はずを整えてからでなければ動けない組織になっていました。そうすると決断に時間もかかるし、スピード感も悪くなる。

 どうしてこんな組織になってしまったのか。マネジメントが悪い、外部環境が悪いと考えそうになりますが、結局、自分がすべての根源なんですよね。そこから、「そもそもおれは、なんのためにこの会社をつくったのか」という問いに行き着きました。もともとは、「世界中の人たちがびっくりするような、おもしろいゲームをつくりたい」という願いからこの会社をつくったはずです。だけど、当時は自分自身も全然おもしろいと思えていない。

 いっそ、この会社を誰かに売ってしまおうかとすら思っていました。でも、一からこの会社を立ち上げて、なかには本当に若い頃から働いてくれている社員もいます。彼らが会社とともに成長しているのに、ここで匙を投げるという選択はないな、と思い直しました。

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