社会学者は、経営者とクリエイターの対談を
どう見たか

中野里陽平(築地玉寿司4代目)×小杉幸一(博報堂 クリエイティブデザイン局)

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今回の経営者とクリエイターの対話は、メディア・コミュニケーション研究を専門とする社会学者・小川豊武氏にはどう見えたのか。本人ですら気が付いていないクリエイター独特の技術とは何なのかを語ってもらう。

 

社会学の知見から対談を分析する

 コンサルティングという仕事はよくよく考えてみるととても不思議な活動です。一般的にコンサルティングとは、ある企業が抱えた経営課題等について、自社内では創出が困難な専門知識を有するコンサルタントが、相談にのったり、現状を分析して助言したりする活動を指します。しかし広告クリエイターがコンサルティングを行うという事例はまだあまり聞きません。ましてや、玉寿司は大きな広告キャンペーンを行う企業ではありません。そのような玉寿司の経営者に対して、広告クリエイターは、いったいどのような方法を用いてアドバイスを行っているのでしょうか。

小川 豊武(おがわ・とむ)
社会学者。東京大学大学院 学際情報学府 博士課程在籍。専攻は社会学、メディア研究。日本の若者をめぐる言説の歴史や、現代の若者文化とコミュニケーションついて研究を行っている。日本広告学会 クリエイティブ・フォーラム2014のポスターセッションで「学生MEP(Most Expectative Presentation)賞」を受賞するなど、広告クリエイティブにも詳しい。主要業績はこちら

 ちなみに、私は社会学を専門にしていますが、小杉さんと同じくお寿司屋さんの専門家ではないばかりか、広告やコンサルティングの専門家でもありません。しかし、社会学の中には、社会に生きる人々が、日々の生活や仕事の中で、その状況に固有の様々な方法を用いながら、どのようにコミュニケーションを成立させているのかを精緻に分析していく「エスノメソドロジー」と呼ばれる学問分野があります。

 詳細な分析は割愛しますが、以下ではお二人のコミュニケーションの中で「広告クリエイティブを活かした経営課題の引出し」がどのように行われていたのかについて若干の考察を加えたいと思います。

広告クリエイターはどのようにクライアントの課題を引き出すのか

「クライアントの課題を引き出す」という活動は、コンサルティング活動の中でも最も基本的なワークのひとつと言えます。コンサルティングが提供するサービスとはクライアント企業の経営上の「課題」の解決に繋がる「知識」なので、「課題」がなければ、そこにはコンサルタントへの「ニーズ」も存在しないことになります。そのため、コンサルタントと呼ばれる人々は、自分たちへの「ニーズ」を明確にするために、「課題を引き出す」というワークを行っていると言えます。

「課題」という概念にしばしば「引き出す」という概念が結びつくのは、クライアントの「課題」がしばしば明確になっていないことが多いためと考えられます(そのため、「潜在的なニーズを顕在化させる」といった表現が用いられることもあります)。すなわち、クライアントの「課題」とはしばしば「引き出される」ことによって初めて捉えることができるようなものとして、私たちは普段の仕事の中でこの概念を用いているのです。

 ここで注意しておきたいのは、「課題」は、あらかじめクライアント企業の中に存在しているものとは限らないということです。今回の小杉さんと中野里社長の対談を見ていて気づくことは、「課題」とは、コンサルティングを行う人とクライアントとの相互行為の中で作り上げられていくものと捉えた方が、より見通しが良い理解が得られそうだということです。ここでは、対談の中で小杉さんが広告クリエイターの立場から「課題」を「引き出す」ために用いていたと見て取れるいくつかの方法を取り上げて、それぞれ見て行きたいと思います。

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