対談2:クリエイターが経営者の課題をつきとめる

中野里陽平(築地玉寿司4代目)×小杉幸一(博報堂 クリエイティブデザイン局)

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クリエイターと経営者の対談実験。前回ではチェーン展開する社長の悩みが明らかになった。話しは、「寿司屋のこだわり」から。はたして、クリエイターは経営者の課題を引き出せるか。対談はさらに深い問題へと進む。

 

クリエイター、「職人エンターテインメント」を提案する

小杉:ホームページの「玉寿司のこだわり」を見ると、素材、技術、接客と書いてありますね。

中野里:たしかにどれもこだわっているけど、でもそれって寿司屋として当たり前だよねということしか書いてなくて。じゃあ改めてこだわりとか価値とは何かを掘り下げて考えてみると、何かなとモヤモヤしていますね。

 接客だって、あるお店にはお客様の湯のみの角度を見るだけで「あがり差し替えましょうか」と言える、アンテナが100本ぐらい出ている板前がいるんですね。でも、全員が出来る訳ではないので、ホームページには載せられないんです。

小杉:なるほど。全然業界は違うのですが、ユニクロは企業理念として「超合理的」という言葉がまずあって、すべてのお店の店員一人一人がそれをめざしてやっていると聞いたことがあります。玉寿司さんも「私たちは海の幸のおいしさに真剣です」という経営理念とは別に、誰もがこの言葉で働いて行けるようなものを、例えばですが「職人エンターテインメントを目指す」という言葉を掲げるのはどうかな、と思いました。そうすると、職人も、料理も、接客もすべてお客さんのエンターテインメントのためにある、と皆が思えるんじゃないですかね。

中野里:「職人エンターテイメント」という言葉がいいかは分からないけど、確かに昔から「男芸者」だと言われているんです、板前は。だから話をしながら気持ちよく食べてもらって、技も見せて、ということをやってきてはいるのですが…。

 ただねぇ、職人を中心に据えてというのは…(2秒沈黙)僕らも現実的な商売をする上で合理性は無視できないんですね。というか、なぜここまで回転寿司が席巻したかというと簡単で便利だから。いわゆるうるさい親父がいて、不明瞭会計な寿司屋がどんどん衰退するのも、わかりやすい寿司屋に行きたいというお客様のニーズがあったからですよね。だから回転寿司の分かりやすさとかシンプルさには謙虚に学ばないと行けないなと思うんです。

 うちも、リーマンショック前には今のような手頃な一品メニューはなかったんです。カワハギ1台1万円、のようなメニューがどんどん出ていたので、安いメニューは作らなかった。リーマンショック以降、お客さんは2割も減って、高いメニューも出なくなったんです。減った2割のお客さんはどこにいったのかと街を歩いてみると、みんなトロ箱系の海鮮居酒屋に行って、マグロのぶつ切り800円をつまみながら「気軽に楽しめていいよね」と言っていたんです。

 それを見て僕は反省しました。魚は嫌われていなんだ、と。海の幸はまだ人気があるのに、カワハギ1台1万円みたいなことをやっていた我々が世の中の流れに気がついてなかったんだなと思って、メニューを変えたんです。

小杉:どのように変えたんですか?

中野里:若い人達でも気軽に楽しめる、手ごろな一品料理を増やしました。特に女性は「今日は気軽にワインバルに行こう」と思っている人、多いですよね。赤提灯ではげ親父に囲まれて飲むよりも、若くてイケメンのソムリエがやっているところで、女子会でワイワイ楽しむ方がいい。そういうライフスタイルの中で、自分をブランディングしていると思うんですよね。

 だから、寿司屋に行っている自分はカッコ良いのか、カッコ悪いのかをひも解くって大事だと思っていて。日常使いが出来て、でも職人がちゃんといる寿司屋で、OLが行きたくなる店ってなんだろう、と考えているんです。

 例えば、美容室には自分のことがよくわかっている美容師がいるから行くじゃないですか。同じように、自分のことを良く分かっているコンシェルジュがいる寿司屋というのをやってみたいんです。これが差別化になるか、逆に小杉さんに聞いてみたいんです。

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