イノベーションを起こすには「制約」が必要である

『イノベーションは日々の仕事のなかに』の著者、パディ・ミラー氏に聞く

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大企業のなかでイノベーションを起こす方法を、「5つの行動+1」というコンパクトなポイントで示した『イノベーションは日々の仕事のなかに』。著者のパディ・ミラー氏は、天才のひらめきに頼るのではなく、組織としてイノベーションを起こすエコシステムだと言う(構成・崎谷実穂)。

 

AppleやGoogleを真似しなくても、イノベーションは起こせる

――『イノベーションは日々の仕事のなかに』には、「フォーカスは自由に勝る」「イノベーションの設計者には、『本当に重要なことにフォーカスできるよう、部下を導く』ことが求められる」とあります。一般的には、イノベーションは自由で、制約のないところから生まれると信じられていると思うのですが、どうしてフォーカスが大事だと書かれたのでしょうか。

パディ・ミラー(以下、ミラー):例えば芸術について考えてみてください。素晴らしい芸術というのは、えてして制約のある状況から生まれています。かつての東ヨーロッパやロシアといった、抑圧されていた地域の作家は、すばらしい文学を生んでいますよね。だからこそイノベーションを起こしたいのなら、リーダーはあえて制約のある状況をつくることが重要なんです。私の教えるMBAのコースでも、学生に対して制約条件を課します。お金やリソース、あるいは許可を与えない状態でアイデアを出させる。すると学生たちは、お金がないなかでいかに物を安くつくるか、というふうに考え始めます。

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パディ・ミラー氏(Paddy Miller)
IESEビジネススクール(バルセロナ)教授。リーダーシップと企業文化のエキスパートとして25年以上にわたり、ナイキ、ルフトハンザ、バイエル、ボーイング、世界銀行などにコンサルティングを実施。MIT、ハーバード大学、中欧国際工商学院などでも講師を務める。共著書『イノベーションは日々の仕事のなかに』(英治出版)は2014年に発売。

――イノベーション企業というと、AppleやGoogleが頭に浮かびます。

ミラー:そうですね。でも、どんな人もスティーブ・ジョブズではないし、どんな組織もGoogleではないわけです。イノベーションを起こさなければ、という問題に直面しているのは、銀行や製薬会社、自動車メーカーなど、ジョブズもいなければGoogleでもない会社です。我々は、厳しい制約が課されている大企業のもとで、イノベーションの道を探っていくしかありません。また、最近のビジネスパーソンは、「イノベーション疲れ」というものに直面しています。

――イノベーション疲れ、ですか。

ミラー:イノベーションを起こすためのセミナーを受講したり、イノベーションについての記事や本を読んだりしたおぼえはありませんか? そういう行動をとればとるほど、「自分にはイノベーションなんか起こせない」と思ってしまうのです。我々はいったん、AppleやGoogleから離れて、イノベーションが起きる環境、構造について考え直す必要があります。AppleやGoogleと同じような言葉、方法を使わなくてもいいんです。思い込みの殻を破っていきましょう。

――無理に真似なくてもいい、と。

ミラー:さらにもう一つ大事なのが、主体性です。東京にあるお店……そうですね、例えばBEAMSなどを想像してみてください。そこの店員は、日々単純な仕事をしています。彼らに、デザインを任せてみたらどうでしょうか。自分の表現ができる環境をつくってみる。そうすると、店の問題、会社の問題は、自分の問題だと考える主体性を持ち始めます。そこから、売られている商品や仕事についてのイノベーションが生まれてくるのです。他社がどうということではなく、自分の問題としてとらえることが大事なんです。

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