ウィキペディア:集合知はどこまで的確か

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ウィキペディア英語版とブリタニカ百科事典の、政治的偏向を比較する研究が行われた。「集合知」(wisdom of crowds:群衆の知恵)は、記事のバイアスや中立性にどう作用するのだろうか。

 

 世界で6番目に多く閲覧されているウェブサイトは、世界中のボランティアたちが緩やかな連携の下に運営する、誰でも編集可能な百科事典である。「集合知(wisdom of crowds)」にイメージキャラクターがあるとすれば、ウィキペディアこそふさわしい。

 ただし新たな調査結果によれば、ウィキペディア(英語版)の記事は平均的に、ブリタニカ百科事典の同項目の記述よりも政治的に偏っているという。そう聞くとクラウドソーシングへの批判にも思えるが、調査結果を詳しく見れば、集合知の本領がどう発揮されるかが明らかとなる。

 2014年10月に発表された研究報告書の中で、シェーン・グリーンスタイン(ノースウェスタン大学ケロッグ・スクール・オブ・マネジメント教授)とフェン・ジュウ(ハーバード・ビジネススクール助教授)は、ウィキペディアとブリタニカの政治的なバイアスを測定している。その方法として、米政治に関する同じテーマを扱った双方の記事をペアにして、それぞれから政治色が濃い用語の数を数えた(英語報告書。抽出したペアの数は3918)。

 以前の別の調査から、各政党の支持者は互いに異なる言葉使いの傾向を持つことが実証されている。たとえば米国では、共和党員は「不法移民」や「国境警備」といった用語を使う確率が相対的に高い。一方、民主党員は「イラク戦争」、「公民権」、「貿易赤字」といった用語をより多く使う。こうした用語選択から、話し手のイデオロギーの傾向が示される(英語論文)。

 支持政党別に分類されたこれらの用語を借用し、グリーンスタインとジュウはウィキペディアとブリタニカのペアを対象に、当該用語が使われる頻度を数えた。そして民主党系の用語の数と共和党系の用語の数の絶対差を算出し、バイアスの値とした。たとえば民主党系の用語を10個、共和党系の用語を3個記載している記事は、バイアスの値が7になる。

 この測定方法によると、ウィキペディアのほうがブリタニカよりも大幅にバイアスが強いこと、そしてやや左(リベラル)寄りであることが判明した。

 研究者たちが調査をそこで終了していたら、「集合知は、少なくともに政治に関していえば、信用できない」との結論が出されたかもしれない。だが2人は、記事の長さ、およびウィキペディアの場合は編集の回数も勘案した。すると比較結果はまったく異なる様相を示す。

 ウィキペディアの記事は平均するとブリタニカの記事よりも長いため、1ワード当たりに換算すれば、ウィキペディアのほうが実際にはバイアスの度合いがやや小さくなるのだ。したがってウィキペディアの偏向性は、専門家による記事(ブリタニカ)よりも劣っていることを示すのではなく、記事が包括的であるがゆえの代償という側面が大きいのかもしれない。いずれにせよ、もしブリタニカが記述を増やせばウィキペディアよりバイアスが減るという可能性は、この調査では一切示唆されていない。

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