垂直的統合の考察〈1〉

ゼロ・ベースで考える
取引コスト理論とダイナミック・ケイパビリティ論

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デビッド J.ティース教授によって展開されているダイナミック・ケイパビリティ論は、未完であるがゆえにさまざまな分野で取り上げられており、その本質は捉えにくい。そこで、議論の本質を明らかにするために、ティース教授の子弟関係を探っていくと、彼の研究は、師であるオリバー E.ウィリアムソン教授の取引コスト理論を超えるために、展開されていることがわかる。

動機は「師の研究」を超えたい!?

 日本における研究者教育は、職人の世界における徒弟制度のようなものである。大学院生に対し、師が手取り足取り教えるようなことは少なく、師の言動をつぶさに観察し、研究プロセスからさまざまなことを「暗黙知」として体得する。このような日本の方式は古いといわれるかもしれない。欧米のようにもっと合理的に個人主義的に行動し、教育改革を行うべきだと思う方も多いだろう。

 しかし、筆者がカリフォルニア大学バークレーで見た子弟関係は、日本で見る後継そのものであった。「取引コスト理論」で2009年にノーベル経済学賞を受賞したオリバー E.ウィリアムソン教授が研究を報告するとき、彼を師と仰ぐデイビッド・ティース教授はどんなに忙しくても必ず聴きに来ていた。一方、ティース教授が報告する際は、師のウィリアムソン教授が参加するのはもちろん、ティース教授の弟子で「オープン・イノベーション」で超売れっ子のヘンリー・チェスブローも必ず参加していた。師弟関係に、日米の差はないと痛感したものだ。

 こうした密接な師弟関係から、どうしても師を超えたいというティース教授の意志を感じ取ることができる。さらに、この密接な関係を追っていくと、ティース教授のダイナミック・ケイパビリティ論における「企業の垂直的統合問題」に注目することができる。

不明確だった垂直的統合の原理

 今日、経営学および経済学では、企業は少なくとも次の3つの方向で巨大化する可能性があることが知られている。

1.水平的な方向
 企業は同じ業界内で水平的に巨大化する。その行動原理は「規模の経済性」である。すなわち、ある業界内で企業が巨大化すると、経済的メリットが発生し、競争優位を得ることができる。たとえば、規模が大きくなると、生産コストを下げることができ、他の企業よりも低い価格で競争することができる。この場合、独占化が進むので、どこかの時点で政府の介入が起こる。

2.多角的な方向
 企業は多角化によって巨大化する。その行動原理は「範囲の経済性」である。たとえば、2つの製品を同じ会社で製造したほうが、それぞれ別々の会社で製造するよりも低いコストで製造できる場合、そこに範囲の経済があり多角化が優位となる。それゆえ企業は多角化を通して巨大化できる。

3.垂直的な方向
 企業は垂直的統合を通して巨大化する。なぜ垂直的に統合するのか。その行動原理は何か。実はこの問題は明確に解かれていなかった。一般に、2つの企業が持つ機械設備等の間に技術的な補完性があり、2つの会社が垂直的に統合すると、技術工学的に生産効率が高まるので統合すると見なされてきた。たとえば、自動車メーカーとサプライヤーとの間に保有する設備が相互に技術的相互依存性がある場合、垂直的に統合するものとされてきた。

 ところが、この第3の論点をウィリアムソン教授が批判したのだ。

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