秘密保護に過敏過ぎる企業は、やがて停滞する

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発明先進国アメリカで、雇用主が企業秘密の流出を防ぐために、元従業員を秘密厳守の規制でがんじがらめにする動きが高まっているという。それは大きなデメリットを伴う。有能人材の不足、従業員の学習意欲の低下、イノベーションの停滞だ。

 

 企業間における自由な人材流動は、経済成長とイノベーションの促進に欠かせない。ところが現在の雇用主はますます、元従業員が業務上知りえた知識やスキルを退社後に利用するのを阻止すべく、法的手段に訴えるようになっている。

 企業は新規雇用者に対し、ライバル企業への転職や同じ業界での独立起業を禁ずる契約にサインするよう求めることが増えている。また米州政府の政策立案者は、雇用主が従業員による知識の外部利用を規制できるように法律を改正し、この動きを助長している。しかし、有能な従業員よりも規制を強める企業を優遇し続ける州は、経済発展に後れを取り、より開放的な地域への頭脳流出を招くことになる。

 ライバル企業への転職を禁じる競業避止契約や秘密保持契約は、これまでは主要幹部や技術者と交わされるのが一般的だった。ところが今では多くの企業が、さまざまな職種にこの手の契約を求めている。そこにはヨガのインストラクター、デザイナー、そして野外キャンプの指導員さえも含まれるのだ(英語記事)。

 規制の種類としては他にも、退職後に元雇用者の顧客との取引を禁じるための、勧誘禁止条項や取引禁止条項がある。業務上知りえたいかなる情報も、退職後に使用してはならないとするものもある。また、元従業員のライバル企業への就職を阻止するために、訴訟を起こす企業も増えている。転職を認めれば企業秘密の漏えいは避けられないからというのが理由だ。2000年以降、競業避止契約と企業秘密をめぐる訴訟の数は急増している(英語記事)。

 この傾向に拍車がかかっているのは、昨今激化する人材争奪戦や、さかんに議論されているスキルギャップ(人材・技能の不足)だけが理由ではない。法改正により、従業員の知識に対する雇用主の規制力が拡大したからだ。たしかに企業にとって秘密保持は重要であり、規制の強化と徹底は一見有益のように思われる。しかしさまざまな証拠を見れば、こうした法改正により、知識を習得してイノベーションを起こそうとする従業員の意欲が著しく削がれてしまうのだ。

 企業秘密や競業避止に関する法律は基本的に州法で定められており、その内容は州によって千差万別だ。たとえばカリフォルニア州では、従業員に対する競業避止契約は規定されておらず、企業秘密の適用範囲もわりと限定されている。ある研究によれば、シリコンバレーの新興企業が他州のテクノロジー企業よりも成功しているのは、この政策によるところが大きいという(英語論文)。にもかかわらず、州により程度の差があるとはいえ、企業秘密関連の法律はこの20年間で増える一方だ。

 第1に、多くの州は雇用主が保護できる「従業員の所有知識」の範囲を拡大している。かつて企業秘密保護法が適用されたのは、〈コカ・コーラ〉の製法やソフトウェア・プログラムのコードといった、明確に定義された知識だけだった。ところが現在、多くの州ではさほど明確でない知識にもこの法が適用される。従業員のノウハウ、顧客との関係、(専門的でない)基本技術、商業利用されることのない情報などだ。たとえば、見込み客を含む顧客リストやサプライヤーのリスト、価格リスト、マーケティング戦略なども保護対象に含まれることが多い。つまり事実上、元従業員は顧客の獲得ができない仕組みになっているのだ。

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