ダイナミック・ケイパビリティと経営戦略論

コダックと富士フィルムのケース

2

 ポーターの戦略論は、基本的に<1>ファイブフォースモデル、<2>三つの競争戦略論、<3>バリューチェーン論からなっている。彼の戦略論は、ミンツバーグによって、ポジッショニング論として特徴づけられているが、実はその本質は、状況決定論である。つまり、状況が企業の戦略行動を決定するというのが、ポーターの戦略論の本質である。

 これは、ポーターの議論が、S-C-P(構造-行為-成果)パラダイムという産業組織論におけるハーバード学派の伝統的フレームワークにもとづいているからである。経済学は、基本的に人間行動の心理的な説明を避ける。というのも、再現可能性がなく、反証可能性がなくなるからだ。再現可能性を高め、テスト可能性を高めるために、状況が人間行動を決定するように説明しようとするわけである。

 そして、事実、ポーターの状況決定論的な戦略論は経験的に批判にさらされることになる。すなわち、同じ状況、同じ業界におかれているにもかかわらず、成功している企業群の戦略的行動が異なっているということである。また、産業の特徴が企業の特徴的な戦略行動を決定するという因果命題が統計的に実証されない。これでは、状況が企業の固有の戦略的行動を決めているとはいえないことになる。

資源ベース論とケイパビリティ論

 こうした状況で登場してくるのが、バーガー・ワーナーフェルトの資源ベース論やジェイ B.バーニーのケイパビリティ論である。企業の戦略的行動は企業が保有する固有の資源やルーティンなどを形成する固有のケイパビリティ(能力)によって決定される。それゆえ、企業の競争優位は企業が保有する固有の資源やケイパビリティで決定されるので、企業はそれがいったい何かを認識し、それに基づいて選択と集中を行う必要があるという。こうして、同じ状況や業界でも企業は異なる戦略的行動を取りうることが説明できるわけである。

 ところが、資源ベース理論では企業の短期的な競争優位は説明できるが、長期的にはそのような資源や能力が逆に硬直性を生み出すことがわかってきた。レナード・バートン教授が主張するコア・リジリティである。特定の資源やケイパビリティに固執すると、逆に変化する環境に適応できず、企業は自滅することになる。たとえば、シャープは液晶技術を固有のリソースと見なし、そこに選択と集中を行ってきたが、それがシャープを硬直化させ、環境に適応できなくなってしまったのである。

 では、企業が持続可能な競争優位を得るにはどうしたらいいのか。こうした問題を抱えていたのが、この分野の研究者であったヘルファット教授やペトラフ教授であった。彼女たちは、ダイナミックな資源ベース論が必要だと考えていた。また、ウインター教授は、ルーティンやケイパビリティを修正するより高次のメタ・ルーティンが存在することを比較的早い時期から主張していた。彼らは、ともに資源ベース論の延長線上でダイナミック・ケイパビリティを考えていたのである。

次のページ  模倣不可能な能力»
Innovator 関連記事
世界のエグゼクティブが注目する話題の新シリーズEI Emotional Intelligence  知識から感情的知性の時代へ 待望の日本版創刊
定期購読
論文オンラインサービス
  • facebook
  • Twitter
  • RSS