超高齢化社会の課題を設定する<上>

課題設定とは何か〈3〉

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日本のリーダーに求められるのは「課題を設定する能力」である。それには、これまでの思い込みや常識を捨て、着眼点や発想を多面的に広げなければならない。また、「課題先進国」という表現も単なる常套句やお題目にしてしまっては思考停止になるだけである。一般論的現象の指摘ではなく、その背景にある個別具体的な課題を発見する努力をすべきだ。こうした思考様式があって初めて、課題を設定する具体的な方法論を習得できる。

経営学に新しい方法論が生まれないのはなぜか

――今回から、いよいよ課題設定の方法論についてお聞きしたいと思います。

 課題を設定する方法論はこれです、という定型のものがあるとは考えないでください。洞察と発見が必要だからです。洞察と発見を方法論として定型化できませんが、もし、できたとすれば誰にもできるようになり、結果、みな同じような課題しか設定できなくなります。これでは本末転倒です。

横山禎徳
東京大学EMP 特任教授

 戦略構築についても同じことがいえます。ブルーオーシャン戦略という戦略論がありますね。私には、概念としては理解できますが、戦略実践という観点からはよくわかりません。ブルーオーシャンというのは、方法論がないから誰もができるわけではない、だからブルーオーシャンなのであって、これが方法論ですよといってみながそれを実践したらその瞬間にレッドオーシャンになってしまいます。矛盾していると思いませんか。

――むしろ、昔からブルーオーシャン戦略を実践していた会社はたくさん存在しているということですね。

 そうです。彼らは考え抜いた結果成功したというよりは、けっこういい加減な感じでやっていたら面白いものができたとか、意外な展開をしたというケースがほとんどです。ましてやブルーオーシャン・プロジェクトを組んで体系的に取り組んだなどという会社は、私の知る限りありません。

 優れた例が大塚製薬の「オロナミンC」です。「リポビタンD」との競合を避けることから始まった動きが国民的飲料になるまでの経緯は、戦略的とはいえないものです。

――たしかに、オロナミンCといえば非医薬系栄養ドリンクというブルーオーシャンを切り拓いた商品ですね。

 非医薬系栄養ドリンクといっても、非医薬系を狙ったわけではありません。先に出た「リポビタンD」と差別化するために炭酸を入れてみたら医薬品と認められなかったのです。医薬品ではないので、これまでのように薬局での販売はできません。仕方なく新しいチャネルを開拓しなければならず、向かった先が当時のメロンパンやアンパン、クリームパンなどを売っていた菓子屋さん。コンビニなどない時代ですから、全国に数十万軒ほどあった菓子屋へ持って行って、拝み倒して置いてもらったそうです。そして、今や数人で10億本程度作っているのではないでしょうか。大成功ですね。

 つまり、その「いい加減なところ」が戦略として見事なのであって、一見行き当たりばったりで「戦略的でない」ところがブルーオーシャン戦略の真骨頂なのです。それを経営学者がブルーオーシャン戦略などと後から説明してみても、実践的、具体的な方法として再現できることは何もないということです。

――あとから現象を説明しているにすぎないということですね。

 経営書にしてもビジネス雑誌にしても、掲載される論文や記事は、成功の理由や失敗の理由など、しょせん事後的な説明がほとんどです。経営学の致命的な問題は、「死体解剖」的であるということ。企業という「生体を解剖」することなく、そのダイナミックな活動を生き生きと観察・分析する方法論はいまだ開発されていません。

 人間を扱う医学、言語学、生物系の分野では、死体解剖でなく生体を扱えるようになってきました。f-MRIにより非侵襲(レスインベイシブ)の検査ができるようになり、画像として見られるようになったことなどがその一例です。死んだ脳の解剖をいくら工夫してみても人間の言語活動は解明できないのですが、f-MRIという装置を使うと、脳に電極を刺すなどということをしないで生きている脳の動きが時々刻々把握できるのです。このような新しい手段が出てくると、その分野は飛躍的に展開するのですが、経営学では長らく分析手法の革新がありません。

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