日本企業はCSVをどのように捉えるべきか

1

Diamondハーバード・ビジネス・レビュー誌2015年1月号の特集はCSV(Creating Shared Value:共通価値の創造)である。マイケル E.ポーターがHBR誌でこの概念を論じた2011年、GE、ウォルマートなどはCSVに取り組んでいたものの、まだ緒についたばかりであった。それから3年を経て日本でも、経済的価値と同時に社会的価値も創造するというアプローチに関心が集まっている。本連載では、この概念を企業の競争戦略・イノベーション戦略の観点から解説し、どのようにしてマネジメントシステムに取り込み、成長の次なる推進力とするかをひも解く。まずは、CSV経営の現状と課題の整理から始めたい。

経営モデル自体にイノベーションが起こっている

 CSVは、競争戦略論・国際競争力研究で著名なハーバード大学のマイケル E.ポーター教授らが中心となって提唱する経営モデルである。

藤井 剛
デロイト トーマツ コンサルティング
パートナー

電機、自動車、航空、消費財、ヘルスケアなど幅広い業種の日本企業において、「成長創出」「イノベーション」を基軸に、成長戦略の策定や新規事業開発、海外市場展開、組織・オペレーション改革等のコンサルティングに従事。社会課題を起点にした新事業創造や、地方自治体・複数企業を核とした地域産業創造に多くの経験を有する。主な著書に『Creating Shared Value : CSV時代のイノベーション戦略』。その他著書、メディアへの寄稿、セミナー講演多数。

 この経営モデルの根幹には、“社会的価値”や“共通善”があり、経済的価値を追求する伝統的な資本主義型の経営モデルとは抜本的に異なる。一部の経営学の専門家からは、「あのポーターでさえ社会的価値を言い出す時代だ」と驚きの声が聞かれるほど、社会的価値を経営モデルの根幹に据えるトレンドが、大きなうねりとなっている。

 このトレンドの背景には、気候変動、水などの環境・資源問題から、国際紛争、経済格差・貧困問題、高齢化等による社会構造の限界などまで、さまざまな社会課題が世界的に顕在化・拡大を続けているという事態がある。

 一方で、社会課題解決を率先すべきパブリックセクター(特に先進国政府)のパワーの一段の衰えがあることも否めない。パブリックセクターがカバーしきれない社会課題解決を担う先として、NPO/NGOなどのソーシャルセクターだけでなく、社会課題解決をビジネスのパワーで加速できるビジネスセクターへの期待と注目度が世界的に高まり続けているのだ。

 CSVをCSR活動の延長にあるものと捉える論もあるが、それではCSVが意味する戦略的側面を見逃しかねない。CSVとは、企業自らがソーシャルセクター、パブリックセクターの力をテコにしながら、世界の深刻な社会課題解決に挑戦していくことを通して、厳しいグローバル市場の競争環境の中で、新たなビジネスモデルを創造し競争優位を確立していく戦略的活動であり、いわば“進化版オープンイノベーション活動”と捉えるべきなのだ(*)

 特に、従来日本企業の中で、NPO/NGOが自社にとっての重要な戦略的パートナーとなる、という発想は皆無に近いだろう。しかし、CSVを推進するためのイノベーションという視座からNPO/NGOの存在を捉えると、発想の転換が起こるはずだ。

 本連載では、ビジネスセクター、ソーシャルセクター、パブリックセクターの3つのセクター(Tri-Sector:トライセクター)横断で仕掛ける新たなイノベーション活動を“トライセクターイノベーション”と呼ぶ。

* 詳細は拙著『CSV時代のイノベーション戦略』を参考にされたい。

次のページ  企業の新たな“戦い方”»
1
Special Topics PR
Innovator 関連記事
最新号のご案内
定期購読
論文オンラインサービス
  • facebook
  • Twitter
  • RSS