日本の宇宙史を塗り替えた感動を忘れない
緻密なコミュニケーションが導いた成功
——JAXA有人宇宙ミッション本部・松浦真弓

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国際宇宙ステーション(ISS)最大の有人施設「きぼう」日本実験棟をはじめ、日本の宇宙事業が発展を遂げる裏には、宇宙飛行士はもちろん、彼らを支えるスタッフの存在がある。フライトディレクタとして活躍する松浦真弓氏もその一人だ。究極のサポート役として、フライトディレクタには何が求められるのか。(構成/新田匡央)

日本にとって最初の扉が開かれた感動

――フライトディレクタとして活躍されるなかで、最も大きな達成感を覚えた仕事は何ですか。

松浦真弓(以下略) 国際宇宙ステーション(ISS)に向かった「きぼう」の1便目の仕事に携わった時です。1便目は「船内保管室」であり、それほど目立った機能を持っているものではありません。しかし、日本がISSの一員になるという最大のミッションを達成するための便です。そのミッションのリードを任されたので、無事に終えたときには言葉では表せない達成感を覚えました。

松浦 真弓(まつうら・まゆみ)
JAXA 有人宇宙ミッション本部 有人宇宙技術センター 主幹開発員
1986年、東海大学短期大学部電気通信工学科電波工学コース卒業後、宇宙開発事業団(NASDA)入社。筑波宇宙センターにて、人工衛星の軌道・姿勢の計算および制御計画、ロケットの追跡等を担当。1998年、宇宙環境利用推進部(現有人宇宙環境利用ミッション本部)異動。2000年、フライトディレクタの訓練でアメリカ・ヒューストンに半年間滞在。2007年、「きぼう」フライトディレクタに認定され、翌年、「きぼう」の第1回組立ミッション主担当フライトディレクタを務める。2011年、HTVプロジェクトチーム異動し、翌年、「こうのとり」フライトディレクタ認定。2014年、有人宇宙技術センター異動し、「こうのとり」および「きぼう」のフライトディレクタとして業務に当たる。現在、2015年打ち上げ予定の「こうのとり」5号機における主担当フライトディレクタとして任務遂行中。

 とくに、船内保管室がISSに取りつけられたあと、ミッションに参加していた宇宙飛行士の土井隆雄さんが、船内保管室とISSとを隔てる扉を開けた瞬間は格別でした。いまとなっては、日本の宇宙ステーション補給機「こうのとり」でも何度もやっているので珍しいことではありませんが、そのときの扉は「日本にとって初めての扉」だったのです。

 土井さんとは、フライトの前からこんな話をしていました。

「日本が初めてつくった宇宙を飛ぶ乗り物に、日本人が初めて扉を開けて入っていくシーンは、日本にとっては月に人が降り立つことと同じぐらいの意味があるよね」

 それを土井さんが覚えていたかどうかはわかりませんが、アポロ11号で初めて月面に降り立ったアームストロング船長の言葉をもじってメッセージを贈ってくれたのです。

「これは、一人の日本人宇宙飛行士にとっては、小さな一歩ですが、新しいよりすばらしい宇宙時代の幕開けです。おめでとうございます。(This is a small step for one Japanese astronaut, but a giant entrance for Japan to a greater and newer space program. Congratulations.)

 その光景を見守っているときは、緊張しながらも興奮しましたね。

――フライトディレクタと宇宙飛行士の円滑なコミュニケーションは、ミッションの成功を左右すると思います。そのために必要なことはなんですか。

 実際の現場では、フライトディレクタが宇宙飛行士と直接話をすることはほとんどなく、宇宙飛行士との交信担当者(CAPCOM)がいます。彼らは管制室内のフライト・コントローラーの会話を聞いて集約し、フライトディレクタから「クルーに伝えてください」と言われたものを伝達する役割です。宇宙飛行士にとっては、直接やり取りをする交信担当のキャラクターのほうが気になるかもしれません。

 ただ、何を伝えるべきか、どのように伝えるべきかを考えるのは私たちの役目です。そのために、宇宙飛行士とコミュニケーションを図り、性格までを事前に知っておくことは、仕事がしやすくなるという意味でも重要です。

 同じ仕事でも、宇宙飛行士によって指示の仕方を変えないとうまくいきません。みずから判断して動きたい人もいれば、事細かな指示をこなすのが得意な人もいます。この人は朝型だから朝のうちに重要な仕事をスケジュールしよう、反対に、この人は夜型だから夜になってから難しい仕事を入れようといった、細かな配慮も重要です。

 そうしたことを考えるようになれたのも、実際に何度もコミュニケーションを重ねた成果だと思います。むしろ、文書に表せない宇宙飛行士の人となりを基に、スケジュールや手順書をつくるのはおもしろいですよ。

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