バーニーズ活性化で見せる
プロ経営者の構え

上田谷真一(バーニーズ ジャパン代表取締役社長)
×石倉洋子【特別対談4】

1

石倉洋子・一橋大学名誉教授がさまざまな分野で活躍している次世代リーダーたちとグローバル人材の要件を探る対談シリーズ4回目は、バーニーズ ジャパンの代表取締役としてラグジュアリー・ブランド・リテイル企業の活性化に取り組む上田谷真一氏を迎え、プロ経営者としての実績を積み上げてきた、その構えやキャリア形成について聞いた。

ラグジュアリーストアの原点に
振り子を振り直す

上田谷真一
バーニーズ ジャパン 代表取締役社長

1970年埼玉県生まれ。92年に東京大学経済学部を卒業後、ブーズ・アレン・アンド・ハミルトン(現プライスウォーターハウスクーパース・ストラテジー)を経て経営コンサルティングに従事。95年から大前研一氏が率いる大前・アンド・アソシエーツ・グループの設立に参画、パートナーに就任。その後、 黒田電気の海外事業・メーカー部門・経営企画の専務、ディズニーストアを運営するリテイルネットワークスの社長、クリスピー・クリーム・ドーナツ・ジャパン社長を経て、12年4月から現職。

石倉 上田谷さんが大前研一さんの会社におられたのは20代でしたね。一橋大学での私の授業に多様なキャリアの方をゲストにお招きした際、20代代表として、学生たちに「こういう生き方もある」という話をしてもらったことがありました。バーニーズ ジャパンの社長に就任されて何年ですか?

上田谷 2012年4月からですから2年半になりました。

石倉 2013年には新宿店をリニューアルオープンして大きな話題になりました。2年連続で増収増益の成長を続けています。社長として、まず何から取り組まれたのですか。

上田谷 バーニーズを「ブランドの原点」に戻すことです。社長に就任した当時のバーニーズは、リーマンショック後でラグジュアリーブランドが苦戦する中、比較的リーズナブルな価格の商品を増やしたり、バーニーズでなくても手に入るブランドを集めたり、値引きやポイントアップなどで対応したりと、いうなれば「売りやすさを確保する」手法で収益を維持していました。その状況を見て、このままでは生き残れないと考え、あらゆる可能性を探りました。幹部社員と「今の路線を続けるか、それとも難しい商品も品揃えして、他店にない“バーニーズらしい”コーディネートを提案していくか」と議論を繰り返したものです。
 

石倉洋子
一橋大学 名誉教授

石倉 そして結果的に、原点回帰を決めたのですね。

上田谷 創業時と異なり今ではインポートブランドを扱うお店や直営店が増えて、普通にブランド品を揃えただけでは、スペシャリティストアたるバーニーズのユニークさは出せなくなってきています。どうやってバーニーズを他店と差別化して勝ち残るかが課題でした。
 その中で原点回帰という僕たちの選択は、年2回のセール以外一切の値引き施策をやめ、品揃えとサービスの魅力度で勝負せざるを得ない状況に自分たちを追い込むものでした。
 その際、背中を押してくれたのは、“バーニーズ”にはかなり強いブランド力がまだまだあるなと感じたことです。社外的には、例えばたくさんの取引先やメディアやお客さまが、「ちょっと最近足が遠のいていたけどバーニーズが面白いことやるなら応援するよ!」と言ってくれたこと、社内的には「ファッション大好き! バーニーズ大好き!」という社員が大勢いたことなどです。
 また、就任直後にブランドについて大急ぎで勉強したところ、期待通り「Select, don't settle(選べよ、固執するな)」「TASTE, LUXURY, HUMOR」など、自分たちの活動の判断軸になるブランドの事業理念も、新しく作る必要はなく社内の歴史の中にちゃんと存在しており、原点回帰戦略はみなで比較的すんなり腹落ちすることができました。

石倉 突然外部からやって来て、社員たちと議論はするけれど、意思決定については譲らないという姿勢を取られたわけですが、それを理解してもらうこと、また広く議論することとトップダウンで意思決定することとのバランスを取るのはすごく難しいと思うのですが。

上田谷 社長を外部から招請するのは、内部から変革を呼び起こすのが難しいからです。その際、改善アプローチの積み上げではなく、大きく振り子を振る必要があります。実際、マイクロマネジメントをやれといわれても私は知らないし、できっこありません。「じゃあ自分で売ってみろ」といわれても、販売の経験がないのですから(笑)。

石倉 でも、振った振り子が正しかったかどうかを誰も確信できないでしょう。賭けみたいなものですか。

上田谷 賭けです!(笑)もちろん事業環境やバーニーズの強み弱みについて必死で研究した上で判断しますが、最終的には「俺たち何やりたいんだっけ?」が大事で、それに沿って決断したことをチームでしっかり握れれば、決めた方向に動き出せると思っています。
 門外漢だから決断できるというのもあります。例えば就任初年度は、自分が作った予算ではないし、商品の買い付けも着任時には大方終わっているので、少々シナリオ通りにいかなくても、株主は支持してくれます。だからこそ最初の年にドカーンと振り子を振るのが鍵なのです。会社に慣れて、自分の責任で予算を組むようになると、大きく振り子を振るのは相当な度胸が必要になります。
 私が振り子を振った初年度は、マーケティング的には成功し、業績も上がったのですが、振りすぎたせいで在庫が膨らんだり、売りにくい物を大量に仕入れてしまったりしまして、消化するのに若干苦労しました。ただし、中途半端に五月雨式に少しずつ変えるよりは、どかっと真逆に振って、それからバランスを取る方がよいと思います。チャレンジ商品が増えすぎたら、売れ筋の商品構成比を上げて調整するといったことを黙々とやればいいのです。

石倉 最初は、社員もお手並み拝見といったところですね。

上田谷 社員が、ご祝儀的にサポートしてくれているときにしかできない振り幅の大きさというものがあります。細かく勝算を読むのでなく大きく勝算を読み、方向が間違っていなければ、最初は期待通りでなくても、社員は「バクッ」と呑み込んでくれるものです。

次のページ  雇われ経営者は、芸能人のようなもの»
1
Special Topics PR
Accelerator 関連記事
最新号のご案内
定期購読
論文オンラインサービス
  • facebook
  • Twitter
  • RSS