足りないのはアイデアではなく「気づく仕組み」

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組織が創造的になれない原因は、アイデアの不足ではなく、すでに存在するアイデアを認識できないことかもしれない。人は独創性に対して負の偏見を持ってしまうからだ。本記事ではその解決法として、アイデアの発掘を巧みに制度化した企業の事例を紹介する。本誌2014年11月号の特集「創造性vs.生産性」関連記事。


「我々にはもっとアイデアが必要だ」――企業はイノベーションの取り組みを拡大しようとする時、たいていこの前提から入るようだ。実現可能な新製品や新システムにつながるアイデアを見出すべく、「既存の枠組みにとらわれない考え」や、「非現実的な発想」をすべきだという話から始める。だが、ほとんどの企業にとって、イノベーションを妨げているのはアイデア不足ではない。すでにある優れたアイデアに気づかないことなのだ。つまり、イノベーションはアイデアの問題ではなく、気づきの問題である。

 歴史上のよく知られた事例を振り返ってみよう。コダックの研究所は、最初のデジタルカメラを1975年に開発していたが、製品化を進めなかった。ソニーが別のプロトタイプを開発し、デジタル写真の未来をコダックから奪ったというのに、無関心同然だった。ゼロックスは最初のパーソナル・コンピュータを開発したが、その技術に十分な投資をしなかったため、スティーブ・ジョブズとアップルにチャンスをさらわれた。米国海軍は、若い士官だったウィリアム・S・シムズによる革新的な砲撃法に関する13の提案を拒絶し続けた。そこでシムズはセオドア・ルーズベルト大統領に直接訴え、ようやく提案は認められた。

 これらは、頭のいい人間や大企業による失敗を示す愉快な事例として片づけられるものではない。だれもが持っている偏見を反映するものだ。つまり、私たちは新しく独創的なアイデアに対して、そこに少しでも不確実な要素があれば、偏見を持ってしまうのだ。

 ペンシルバニア大学ウォートン・スクールのジェニファー・ミューラー率いる研究チームが2012年に発表した研究結果は、このことを明らかにしている。実験では被験者たちを2つのグループに分け、一方のグループには軽度の不確実性を植え付けるためにこう伝えた。「参加者の中から無作為に選ばれた人が、報酬を余分にもらえます」。しかしその詳しい方法は、実験が終わるまで知らせない。被験者を驚愕させるほどの提案ではないが、ある程度の不安感を植え付けるには十分だった。

 そのあと、2つのテストが行われた。最初のテストは、創造性と実用性に対する被験者の潜在的な認識を測るものだ。被験者はコンピュータの画面上で2組の言葉を見せられ、好きなほうを選んでいく。用意された語群には、創造性を表す言葉(例:新奇な、創意工夫、独創的)と、実用性を表す言葉(機能的、実用的、建設的)がある。さらに、肯定的な言葉(よい、太陽の光、平和)と、否定的な言葉(醜い、悪い、腐った)がある。これらの組み合わせが表示され、被験者はたとえば「よい 独創的」と「悪い 実用的」のどちらが好きかを選んでいった(この手法はIATテストと呼ばれる)。

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