宇宙空間で求められる
極限のチーム・マネジメント

日本人初のISSコマンダーが実践するリーダーシップ

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国際宇宙ステーション(ISS)のコマンダー(船長)には、国籍も文化も違う個性的なメンバーをまとめ上げることはもちろん、限られた期間で高い成果を上げることが求められる。そのISSコマンダーに日本人で初めて任命されたのが、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の宇宙飛行士である若田光一氏だ。『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』2014年11月号の特集、「創造性 vs. 生産性」に掲載したインタビューより、ダイジェスト版を特別公開。
 

地上のマネジメント経験が宇宙でも役立っている

――日本人初の国際宇宙ステーション(ISS)・コマンダー(船長)に就任され、任務をまっとうされました。クルー(乗組員)時代と比較して、行動や心境の面でどのような変化がありましたか。

若田光一(わかた・こういち)
宇宙航空研究開発機構(JAXA)の宇宙飛行士。1963年、埼玉県生まれ。1989年、九州大学大学院工学研究科応用力学専攻修士課程修了後、日本航空に入社してエンジニアとして勤務。1992年、旧・宇宙開発事業団(NASDA)の宇宙飛行士候補生に選ばれ、これまでに3回、アメリカ航空宇宙局(NASA)のスペースシャトルに搭乗して宇宙飛行ミッションに参加。2009年に行われた3回目のミッションでは、日本人として初めて国際宇宙ステーション(ISS)に約4カ月半の長期滞在をした。その後、NASA宇宙飛行士室のISS運用ブランチ・チーフを経て、JAXA宇宙飛行士グループ長に就任。2011年2月、ISS第38次/第39次長期滞在クルーに選ばれ、第39次長期滞在時には日本人初のISSコマンダー(船長)として指揮を執った。主な著書に『宇宙飛行』(日本実業出版社)、『国際宇宙ステーションとはなにか』(講談社)などがある。

PHOTOGRAPHY: Aiko Suzuki

若田光一(以下略) コマンダーに任命されたのは、フライトの約二年半前でした。ですから、宇宙に行ってからコマンダーになるのではなく、フライトに任命された時点からコマンダーとしての振る舞いが求められます。

 私もコマンダーに任命されたその日から、その役割を果たすための仕事を始めました。訓練カリキュラムやスケジュールがクルー全員にとって無理なく合理的に組まれているか、宇宙飛行士それぞれの軌道上での担当業務が適切かどうかなど、世界各国の訓練計画管理担当や、アメリカ航空宇宙局(NASA)宇宙飛行士室の室長らとの調整業務も頻繁に生じます。

 また、仲間の宇宙食の確保についても、コマンダーとしてしっかり気を配る必要があります。ISSでの宇宙食にはNASAとロシアが供給する「標準食」に加え、それぞれの宇宙飛行士が個々に選択できる一定量の「嗜好食」があります。

 ISSの閉鎖環境のなかで約半年間にわたって士気を維持し、日々、安全確実にミッションを遂行しなければならないクルーにとって、精神心理的な観点から、嗜好食の存在は非常に重要です。宇宙から、美しい母なる青い惑星を眺められることも気持ちを安らかにしてくれ、宇宙飛行の醍醐味といえます。また仕事面でも、地球ではできない多くの貴重な経験ができます。しかし、地球上で精神的なリラクゼーションにつながることの多くが、ISSではできないのも事実です。

 たとえば、ストレス解消にゴルフの打ちっぱなしに行ったり、職場の同僚と一緒に居酒屋に飲みに行ったり、カラオケで一緒に歌ってリラックスしたりすることもできません。そうした環境のなかでは、嗜好食を食べたり、それを仲間に振る舞ったりすることが、クルー全体のストレス解消に一役買っています。

 人間は、自分の好きなものを食べられない状態に置かれると、心理的にストレスがかかるものです。地上ですらそうなってしまうため、さまざまな制約がある宇宙空間ではなおさらです。だからこそ、自分を含めた六人の宇宙飛行士それぞれの嗜好食が、予定通りのスケジュールでISSに打ち上げられるかどうかをチェックするのも、コマンダーの重要な任務なのです。

 クルーの一員としてフライトしていた頃は、自分に必要な準備を中心に考えていても、大きな問題はありませんでした。しかし、コマンダーはクルーの心理状態もよく観察し、一人ひとりが士気を高く保ち、個性を発揮して仕事がしやすい環境を整える必要があります。コマンダーに任命されてからは、そのことを強く意識していました。

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