日本の農業の特殊性と多様性が
競争力になる

加藤百合子(エムスクエア・ラボ 代表取締役)
×石倉洋子【特別対談3】

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石倉洋子・一橋大学名誉教授がさまざまな分野で活躍している次世代リーダーたちとグローバル人材の要件を探る対談シリーズ3回目は、静岡県菊川市で農業支援ビジネスを展開するエムスクエア・ラボ創業者の加藤百合子さんを迎え、最先端のエンジニアリング技術者であった理系の知識を生かしつつ取り組む持続的な農業への挑戦、生産者と購買者、そして消費者を結ぶ確かな成果について聞いた。

納屋にフェラーリ、農閑期は沖縄長期滞在
農業は本当に儲かる!?

石倉 加藤さんに会ったらお聞きしようと思っていたことがありますので、まずはその質問から。「農業は儲かる」とおっしゃっていますが、本当ですか。農業といえば、作業が過酷で儲けは少ないというイメージを持っているのですが(笑)

加藤百合子
エムスクエア・ラボ 代表取締役

1974年千葉県生まれ。東京女学館(中等部)を退学して地元中学へ。一貫校の慶應義塾女子高校に入学するも東大農学部に入学。農業用ロボットの研究に没頭する。1999年に英国Cranfield Universityで修士号を取得、同年NASAプロジェクトに参加し、植物工場の研究でPaper Awardを受賞。帰国後キヤノンで半導体検査部門を担当。結婚を機に夫の親族が経営する三共製作所で減速機の開発に従事する。2009年農業シンクタンク「エムスクエア・ラボ」を創業。2012年、ベジプロバイダー事業で日本政策投資銀行「第1回女性新ビジネスプランコンペティション」大賞を受賞。

加藤 北海道とかの一部を除けば、農業は本当に儲かっていると言っていいです。統計上の平均値ですが、農水省の『農業経営統計調査』を見ると、畑作農家の農業所得は1400万円ぐらいです。実際、私の経験でも納屋を開けるとフェラーリがあったり、年に一度は夫婦でハワイ、農閑期ともなれば奥さんたちは沖縄に1カ月の滞在、なんていう農家がたくさんあります。20歳代で年収1千万円などはザラです。

石倉 なぜ、農業は儲からない、というイメージがあるのでしょうか。

加藤 農業経営の収支状況がニュースになることはありませんし、報道は、悲しいことを伝えるのが仕事と思っているのか、台風被害とか不作の時ぐらいしか農家を取り上げません。「今年の収穫は全滅です」などと報道されれば、見たり読んだりした人は「全滅=収入ゼロ」と考え、「農家は大変だ」と思われるでしょう。そうした報道によるイメージは大きいと思います。
 ですが一方で、農業は食料確保に貢献しているということで、さまざまな補助金に助けられているのも事実です。一銭の事業収入がなくても暮らせるようになっています。

石倉洋子
一橋大学 名誉教授

石倉 農業は確実な収入が期待できるとなれば、やってみようという人も増えますね。

加藤 最近、「地方再生」がニュースのキーワードになっていますが、ベンチャースピリッツさえあれば、何でもできるのが今の田舎です。ハードはある、家はある、優秀な経験をお持ちでリタイアした人はいる。アイデアさえあれば何でもできます。農家を継ぐ人が減っているので、ハード面ではまったく問題はありません。

石倉 とはいえ志を持って参入したけれど、挫折する人もいるのではありませんか。

加藤 私の知る限りでは、地域振興事業や補助事業などを上手に活用して、ニッチではあるけれど、自分の思いに沿った仕事をできている人のほうが多いですよ。

石倉 農業を中心としているコミュニティの閉鎖性、後継者がいないのは困るけど、「外の人」は来てほしくないというような話も聞くのですが……。

加藤 私は最初から溶け込むのを諦め、変人としてやることに決めました(笑)。地元の人とあつれきが生じると、家族全員が面倒な影響を受けてしまうので、近からず遠からずぐらいがいいと、自分の住んでいる町から2~3町村離れた所で、変人として振る舞っています。やはり近くでやると潰されます。自分たちのための農道に、他人のクルマや長靴の泥が落ちているのさえ嫌だ、という人もいます。

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