なぜ、時代の半歩先を歩み続けられるのか
80歳でも衰えない、圧倒的な好奇心の源泉
――電通・有賀勝

統合マーケティングの提唱者であり、世界的マーケターのドン・シュルツ教授は、1934年生まれの80歳だ。いまも世界中を飛び回り、精力的に講演活動や執筆を続ける原動力とは何か。ノースウェスタン大学でシュルツ教授に師事した電通の有賀勝氏が、その秘訣を語る。(構成/加藤年男)

なぜ、ドン・シュルツは時代の半歩先を歩み続けられるのか

――シュルツ教授の理論のなかで、特に印象深いものはありますか。

有賀 根っこの部分は、今も昔も一貫しています。一つは「部分最適の弊害」です。これは彼の主張の根底を流れています。部分最適に起因して、さまざまなちぐはぐな現象が起きていると説かれています。また、カスタマー・フォーカスもその一つです。全体最適を考えるには、とことん消費者の視点から考えること以外ない。頭で考えるだけでは意味がなく、その時に使うことのできる技術や方法論を駆使して、真理に迫っていこうとしています。

 私がアメリカにいた時は、まだインターネットの普及前で、その後、環境は大きく変わりました。しかし、彼が言っていることは本質的に変わっていません。なぜなら、インターネットが出てきたからといって、すべてが解決されたわけではないからです。真理に一歩近づくと、また新たな課題が生まれ、それを乗り越えるためにまた新しいフレームを考える。そうやって、シュルツ先生は進化しているのだと思います。

――彼の教えが実際の業務やビジネスで役立ったことはありますか。

ドン・シュルツ
ノースウェスタン大学名誉教授
統合マーケティングの提唱者であり、また、3M、ビザ・インターナショナルなど数多くのグローバル企業でのコンサルティングの実績を持つ。自ら経営するコンサルティング企業のAgora社CEOも務める。ESOMAR(European Society for Opinion and Marketing Research)、The ARF(The Advertising Research Foundation)、IAA(世界広告会議)など世界的なカンファレンスのパネラーとしても著名で、常にアグレッシブな講演を行っている。

有賀 これを教わったからこの業務に役立った、という具体的なことはないのですが、考え方には大きな影響を受けていると思います。一つ挙げるとすると、先ほどもお話しした、部分最適の損失を認識する思考スタイルでしょうか。世の中の実態は部分最適の集合体であるということを、彼はいつも言っていました。現実にそれを克服するのは極めて難しいことも事実ですが、重要な考え方だと思います。

 また、彼を見習いたいと思ったのは、コンサルティングを行う場合、何かしらの具体的なツールを考えて、実践していることです。例えば、だいぶ前の話しですが、広告の効果をどうやって見るのか。彼は、広告の効果をショート・タームとロング・タームに分けて考えました。ショート・タームは1年として、その間、なんらかの変化があったものを計測して、数値化します。一方、それ以上の期間のものは別の計測を行い、こちらも数値化を図る。両者をスプレッドシート(表計算)で管理しながら、広告キャンペーンを回す、という考え方です。

 ダッシュボードのような考え方ですが、シュルツ先生の主張の特徴は、投資である以上は、会計上処理できる仕組みが不可欠、と考えている点です。当時、誰もそこまでは考えていませんでした。100%正確に計測ることはほぼ不可能です。でも、それに迫ろうという姿勢こそが、ビジネスをきちんと考えることにつながるのです。アカウンタビリティ(説明責任)を追求する姿勢が身につくわけですね。

 当時、マーケティングやマーケティング・コミュニケーションを学ぶ者に対して口ぐせのように、マーケティングやコミュニケーション投資についてCEO(最高経営責任者)や財務責任者と対等に話せるように勉強しなさい、と仰っていました。納得させるためには、自分の専門だけでなく、ビジネス全体を知っていなければいけない。当然、広い視野と見識を持たなければいけない。特に、財務については熟知する必要があり、感覚ではなく数字を使って投資効果を論理的に説得できるスキルが必要。そういう思考を持たないと、企業内でマーケティング部門の地位は低下する、と。

 彼に言わせると「これができなければプロの仕事ではない。ただやっているだけだ」となります。

――学生相手にもまったく手を抜かない厳しさを感じます。

有賀 当時もいまも彼は人気スピーカーですから、学生相手ばかりでなく、業界団体や学会でもそうした発言をしています。その意味では、学会でも彼は独特な存在でした。Ph.D.(博士号)を取りたての人などが学会で発表する時は、シュルツ先生がいるだけでかなり緊張しているのがわかりましたよ。

 何回かアメリカの広告学会に出たことがあるのですが、日本と違ってアメリカの学会はインタラクティブです。あまり広くないセミナールームのような会場で、若い先生が発表しベテランの先生と議論を交わすのですが、最前列にドン・シュルツが座っていると雰囲気が違う。アメリカ人はフランクなので、「Hi, Don.」と言ってもおかしくありません。でも、若い人はそんな呼び方はせず「Doctor Schultz」でした(笑)。

 褒められるのか、けなされるのか、皆、彼の第一声を、固唾をのんで待っていました。とはいっても、理不尽なことを言って、いじめるような人ではありません。論理的かどうか、ちゃんと考えてきたかどうかが判断基準です。また当然ですが、ビジネス・パーソンに語る時と研究者に語る時では違います。学会では、学者としてのシュルツ先生の顔になりますから、発表内容が研究者のルールに則ったものかなど、方法論や手順についてのコメントも多かったように記憶していています。

――シュルツ教授は新しいもの、先進的なものをどんどん取り入れていくタイプだと聞いています。

有賀 はい。ただ、新しいものを闇雲に取り入れるというのではなく、彼の頭の中には、常に自問自答しているようなテーマがたくさんあるように思えます。新しいものが出てきたら、これはこういう使い方ができる、などと工夫して、頭の中のフレームに取り込むことを試みる。彼は手放しで「絶対、これが正しい!」などと言い切ることはありません。その意味で、謙虚な研究者です。

――今回、シュルツ教授が来日されますが、日本のビジネス・パーソンが彼から学ぶべきものは何でしょうか。

有賀 先ほどお話したように、どんな話も根本の思想、根っこの部分は一貫しています、同時に、時代の半歩先を行くようなことを常に考えています。そこに時代が追いつくと、さらにその半歩先を行く。これをずっとやってこられた方だと思います。

 もちろん、そのためにはそうとう努力されていると思います。シュルツ先生は、年間おびただしい数の講演をこなされています。同じ場所で1年後に話をされることも多いことから推察すると、同じテーマであっても少しずつ変化させて、常に進化しているのだと思います。それには、不断の努力が必要ですから、大御所に甘んじることもなく、絶えず情報収集をし、勉強もして、好奇心が衰えることのない努力の人なのです。

 彼のそうした部分を感じ取っていただくと、よいかと思います。 

 

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