考え抜いた言葉はシンプルでも説得力を持つ
ドン・シュルツに学んだ、思考し続ける意味
――電通・有賀勝

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2014年9月24日・25日、現代マーケティングの父・フィリップ・コトラー教授が設立した「ワールド・マーケティング・サミット」が日本で初めて開催される。世界的マーケターの来日を記念して、本連載では、彼らと縁のある日本人識者がその魅力を紹介する。第7回と第8回は、ノースウェスタン大学に留学し、統合マーケティングの第一人者・ドン・シュルツ教授に師事した電通の有賀勝氏に話を聞いた。(構成/加藤年男)

本質的な指摘に、自分の考えの浅さを思い知る

――有賀さんがシュルツ教授に出会ったきっかけを教えてください。

有賀 シュルツ先生に初めてお目にかかったのは、1980年代の終わり頃ですから、もう25年ほど前になります。当時、あるプロジェクトで、先進的な考えを持つアメリカの研究者を探していました。すると同僚から、「ドン・シュルツというすごい教授がいる」と聞き、連絡を取って会いに行きました。短期のプロジェクトでしたが、そこで一緒に仕事をしたことが最初の出会いです。その後、留学してシュルツ先生の下で学ぶことになりました。

 独特の南部訛で、太い声でゆっくりとしゃべる方でした。アメリカ人にしても体が大きい方で、一見、温和そうな印象ですが、いざ口を開くと、平然とした顔でマーケティングを携わる者の常識の裏をかくようなことを、グサッと言います。言われたほうは、自分がいかに浅い考えでいたかを思い知らされるような本質的な指摘を受け、ぐうの音も出ない。そんなやりとりを間近で見せられ「世の中にはすごい人がいるな」と感心したものです。

――その後、シュルツ教授が教鞭をとるノースウェスタン大学に留学されています。

ドン・シュルツ
ノースウェスタン大学名誉教授
統合マーケティングの提唱者であり、また、3M、ビザ・インターナショナルなど数多くのグローバル企業でのコンサルティングの実績を持つ。自ら経営するコンサルティング企業のAgora社CEOも務める。ESOMAR(European Society for Opinion and Marketing Research)、The ARF(The Advertising Research Foundation)、IAA(世界広告会議)など世界的なカンファレンスのパネラーとしても著名で、常にアグレッシブな講演を行っている。

有賀 初めて会ってから2年後に留学しました。社内の留学試験に受かり、どこで学ぼうかと考えたときに、マーケティングならフィリップ・コトラー先生やシュルツ先生がいるノースウェスタンに行きたいと思ったのです。広告会社に勤めていますので、IMC(Integrated Marketing Communications:統合マーケティング)プログラムに興味がありました。IMCプログラムは、ビジネス・スクール(ケロッグ経営大学院)ではなく、ジャーナリズム・スクール(メディル・ジャーナリズム大学院)の中にあり、そちらに留学しました。大学院ですから比較的自由に他学部の授業を取ることができ、両方の学部の先生の講義を受けられることが魅力でした。

――実際に入学されて、シュルツ教授からどのようなことを教わりましたか。

有賀 ビジネスの現場で会ったときと違い、入学するとふつうは「先生と生徒」の関係になるわけです。ただ、私は以前仕事をしたこともあって、広告界の時のトピックスについて意見交換したりと、先生と生徒の関係を超えた、いろいろな話ができました。いま思えば非常に充実した時間でしたね。

 彼はそのころから有名人で、大学にいないことも多かったと思います。企業のコンサルテーションもよくやっていましたし、大先生ですからコマ数は少なく、シュルツ先生が招いてきた先生に教わることのほうが多かったです。もちろんシュルツ先生のお眼鏡にかなった方々ですから、皆さんプロの見識を持つ先生ばかりでした。

――シュルツ教授の授業で印象的だったことはありますか。

有賀 もともと、学年全体が80人と少人数でしたから、先生と学生の距離は非常に近いものでした。しかし、学部からそのまま進学したり、ビジネス経験の浅いアメリカ人の大学院生にとって、シュルツ先生はとても恐い存在だったようです(笑)。先ほど言ったように、考えの浅い発表をすると、全員の前で手加減なしに、理詰めで、完膚なきまで打ちのめされるんです。特に女性の院生からは非常に恐れられていましたね。

 大きな声で叱責するようなことはありませんが、彼は多少ラディカルに、アンチテーゼ的なことを言う。学生は教科書で勉強しているだけですから、簡単に論破されてしまいます。でも、学問のことで相談に行くと、ちゃんと親身になって答えてくれる人でもありました。

――ノースウェスタン大学では、コトラー教授の授業も受けましたか。

有賀 もちろん授業も取りましたし、いろいろな相談にのっていただきました。あまり日本では知られていないかもしれませんが、コトラー先生は日本の「根付」のコレクターとしても高名なようです。ある日、研究室で話していたら、根付の価値の評価尺度についての論文を見せてくれましたが、その著者名はノースウェスタン大学のフィリップ・コトラーではなく、いちコレクターとして、肩書なしでフィリップ・コトラーと書いてありました。読むと、根付の価値についてマーケティング的なアプローチをしていたのが、印象的でした。「コレクションを見に来ないか」と誘われ、ご自宅にお邪魔したことも何回かありました。

 ご自宅では、独自の体調管理法について語ってくださったことを、よく覚えています。私が当時うかがったご自宅には、リビングルームに自慢のプールがありました。いくらアメリカ人の家が広いといっても、リビングにプールがあるのを見たのは初めてです。8畳間くらいの広さのジェットバスのようになっていて、水流をコントロールできます。つまり、自分は中央にいながら、水流に逆らって泳ぐのです。「その日の体調に合わせて、水流の速さを変えるんだ」と仰っていました。

――当時、コトラー教授はどんな授業をされていたのですか。

有賀 複雑な事象の整理の仕方が天才的、という印象です。授業はどちらかというと概論的な説明にとどめ、「この分野はカリフォルニア大学の○○教授が詳しいから、彼の本を読むといい」「この分野はフランスの○○君の研究が参考になる」とかいうことをよくおっしゃっていました。マーケティング研究の全体体系という視座から、誰がどんな研究をしているかしっかり把握されているのは、さすが「現代マーケティングの父」だなと思いました。

 今もそうですけど、コトラー先生は共著が多いと思います。専門分野が異なる人と一緒に研究して、彼も新しい領域を広げていく。大御所になっても、まだまだ終わりがないというか、学問の道をひたすら突き詰めていく方なのだと思います。

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