なぜ、苦しくても値下げしなかったのか
マーケターの知見を経営の現場に活かす
――IMD日本代表・高津尚志

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世界的ビジネススクールIMDで学長を務めるドミニク・テュルパン教授は、自身が研究するマーケティング理論を実際の経営にも活かしている。「ワールド・マーケティング・サミット・ジャパン 2014」で来日するテュルパン教授の、経営者としての一面が語られる。(構成/加藤年男)

 

――高津さんは、テュルパン教授の授業を実際に受けたことはありますか。

高津尚志(以下、高津) あります。とても面白いですよ。特に面白いなと思ったのは、事例の国籍が本当にさまざまなことです。例えば、アメリカのマーケティングの先生の本を読むと、何だかんだと言っても7、8割はアメリカの事例ですよね。

 ところが、彼が最近書いた「Looking for the Next Apple in Emerging Markets(新興市場に次のアップルを見つけよう)」というテーマの論稿には、「タイのビーチに行ってみると、ブラジルのハワイアナスのサンダルがローカルプロダクトの8倍の値段で売られている」とか「イギリスの上流階層のポロのイベントに出かけていくと、アルゼンチンのラ・マルティーナというシャツがたくさん着られている」などという話があちこちに出てきます。

 そんな具合に、世界のいろいろな国で起こっている事象を見つけてきては、そこから示唆を抽出することに非常に長けているのです。

――身近なものから気づきを得るということですね。

ドミニク・テュルパン
IMD 学長
2010年、スイスに本拠を置く世界的なビジネススクール、IMDの学長に就任。IMDにおいて、MBA(経営学修士)プログラムのディレクター、また、経営者育成プログラムであるPED(Program for Executive Development)のディレクターなどを歴任。 パナソニック、JTインターナショナル(日本たばこ産業海外部門)、花王、グループセブ(Groupe SEB)などに対する企業別の幹部育成プログラムのディレクターも務めてきた。欧州およびアジアの両地域におけるマーケティングと国際戦略の分野で教育、コンサルティング、調査研究の広範な経験を持ち、特に、ブランド・マネジメント、顧客志向の徹底戦略、コミュニケーション戦略の領域を専門とする。

高津 そうです。その身近なものが世界中にあるのがテュルパンなのです。おそらく、世界中のマーケティングの先生のなかでも、彼ほど定期的に旅をしている人はいないでしょう。例えばIMDの学長として、年間52週のうちの20週くらいは海外出張をしています。出張先は日本もあれば、南北アメリカ、アジア諸国、中東、アフリカもある。あちこち旅をしながら、それぞれの国でいろいろな経営者と会っています。また、それこそビーチに出かけて(笑)、お店を回っています。そのなかで彼が感じ、持ち帰るアイデアは、グローバルな文脈でマーケティングや経営を考える場面において、豊かな示唆に満ちています。

――受講者からの評価も高いように思います。

高津 はい。非常にホスピタリティのある教え方をする人で、事例やヒントを与えつつ、みんなが話しやすい環境をつくって意見を引き出していきます。さらにそれに対して反応していくことでさまざまな知がその場で立ち上がってくる、そういう教え方をする人です。

 彼の授業が面白い理由の一つは、年中旅をしているので事例がグローバルで豊富だということ。もう一つは、「クラブ・ドゥッシー(Club d’Ouchy)」といって、世界中の有力企業のCMO(最高マーケティング責任者)を年に数回集め、議論や事例交換をする場を持っていることです。このように世界中のCMOと定期的に意見・情報交換、議論をしていることも彼の特徴で、それによって彼自身のマーケティングに関する知識や経営への洞察が更新されているのです。

――高津さんは、経営者(学長)としてのテュルパン教授をどう評価されていますか。

高津 私から言うのは僭越ですが、学長になって明らかに変わったと思いますよ。最近の彼のコンテンツは、グローバル度合いが今まで以上に高まっています。学長になるまでは、活動の中心はあくまでスイスで、たまに調査・研究や教育のために出張する程度だったと思います。それが学長になると、世界中のお客さまのところに会いに行く必要が生まれ、出張の頻度も国の訪問数も、会う相手のレベルも変わっています。それによって彼が進化しているのは間違いありません。

 私から見て、彼が経営者として大事にしているなと思うことは二つあります。一つは、前回もお話ししたように、結局は人間関係だということ。もう一つは、彼自身がマーケターであり続けるということです。テュルパンが学長になってから、幸いなことにIMDの経営も堅調です。例えば『フィナンシャル・タイムズ』紙のエグゼクティブ教育における世界ランキングでも、数年連続で世界第1位を取るなど、手ごたえのある経営ができています。

 それらをやっていくうえでは、彼が持っている人に対する配慮と、マーケターとしての一気通貫性のようなもの、その二つがともによい影響を与えているように思います。

――どんな時にテュルパン教授がマーケターであることを感じましたか。

高津 彼が経営者でありマーケターであることのよさは、IMDとしての特色をIMDのメンバーが明確に認識し、それをさらに活かしていくための社内体制づくりや人材育成、そしてその特色をマーケットにきちんと伝えるための手法が研ぎ澄まされてきたことです。この点において、IMDはこの4年間でものすごく進化しました。

 例えば、パンフレットなどに記されたIMDのブランド・メッセージ一つを見てもそうです。彼はいつも、自分は「Marketing guy(マーケティング・ガイ)」でもあると言っています。そして、マーケターとして最も大事にすべき言葉が「differentiation(差別化)」である、と言っています。だからこそ、テュルパンが率いたプロジェクトを経て「高インパクトの幹部教育を通じたグローバルリーダー育成の世界的専門チーム」というビジョンのあとに、IMDが他のビジネススクールとどこがどう違うのかを明確に打ち出すようになりました。

 そのプロジェクトでは、IMDにとっての差別化とは何か、をIMD内外に問い掛け、3つにまとめ上げました。日本語に訳すと、「現実の世界で活躍できる経営幹部の育成に100%焦点を合わせている」「スイスならではの卓越性とグローバルな視野を提供する」「そのアプローチは柔軟で、顧客志向で、高い効果を発揮する」です。

 これはテュルパンが学長になって2年後に出てきたものでした。この部分が明確になったことで私もお客様と話がしやすくなったし、いい関係がつくれるようになったし、自分がすべきことも明確になりました。

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