日本人以上に日本を愛するフランス人は
いかにして世界的マーケターになったのか
――IMD日本代表・高津尚志

2014年9月24日・25日、現代マーケティングの父・フィリップ・コトラー教授が設立した「ワールド・マーケティング・サミット」が日本で初めて開催される。世界的マーケターの来日を記念して、本連載では、彼らと縁のある日本人識者がその魅力を紹介する。第3回と第4回は、IMD日本代表である高津尚志氏が、IMDの学長を務めるドミニク・テュルパン教授について語る。(構成/加藤年男)

 

――高津さんとドミニク・テュルパン教授との出会いを教えてください。

高津尚志(以下、高津) いまから4年前、ヘッドハンティング会社の仲介で、「IMDの日本市場の責任者にならないか」と声をかけられたことがきっかけでした。日本で面接を受けて、IMDにとっての日本市場の魅力等の会話をしていくなかで私を気に入ってもらえたのだと思います。その後、スイスに出向き、IMDを代表する教授やディレクターの人たちと会いましたが、そのプロセスにおいても、テュルパンはいろいろと導いてくれました。

――テュルパン教授の最初の印象はいかがでしょうか。

ドミニク・テュルパン
IMD 学長
2010年、スイスに本拠を置く世界的なビジネススクール、IMDの学長に就任。IMDにおいて、MBA(経営学修士)プログラムのディレクター、また、経営者育成プログラムであるPED(Program for Executive Development)のディレクターなどを歴任。 パナソニック、JTインターナショナル(日本たばこ産業海外部門)、花王、グループセブ(Groupe SEB)などに対する企業別の幹部育成プログラムのディレクターも務めてきた。欧州およびアジアの両地域におけるマーケティングと国際戦略の分野で教育、コンサルティング、調査研究の広範な経験を持ち、特に、ブランド・マネジメント、顧客志向の徹底戦略、コミュニケーション戦略の領域を専門とする。

高津 体格ががっしりとしているので威圧感があるようにも見えますが、非常に朗らかで人を惹きつける魅力があり、親しみやすいキャラクターという印象でした。それはいまも変わりません。

 出会ったときは、まだIMDでマーケティングを教える一人の教授で、日本の経済界に対するIMDの貢献を高めることも彼が担当していました。それが、私がIMDに正式に参画する3ヵ月ほど前に学長に就任することになりました。日本市場について親しく語り合っていたテュルパンが、突然、学長になったのには驚きましたね。

――テュルパン教授は日本ととても縁が深い方とうかがっています。

高津 彼はいま50代半ばですが、20代のときに日本にやって来て、5年くらい滞在していました。テュルパンはフランス人ですが、当時、フランスで留学先といえばアメリカです。しかし、彼はみんながアメリカに行くのなら自分は違う国に行きたいと考えていたようです。ちょうど日本経済が注目され始めたころで、日本に興味を持って来日しました。日本での5年間の生活では、企業に勤務したり、日本の文部省の奨学金を得て上智大学で博士号を取ったりしています。そのときに日本語を覚え、日本との深い縁ができたのです。

 当時、日本経済の注目度は高かったにもかかわらず、それを教えられる人がほとんどいませんでした。そのためヨーロッパのビジネススクールは、それができる人材を探していました。テュルパンはまだ30歳前後でしたが、日本をよく知っているということから、IMDの前身であるIMEDEに誘われて教授に就任します。それからずっとIMDのなかで、日本人以外の人たちに日本について伝えながら、学者としての基礎を築くことになります。

――彼自身にとっても、日本で暮らしたことの影響は大きかったわけですね。

高津 彼は、「日本に来ていなかったら、IMDの学長にはなっていなかっただろう」と言っています。彼の学者として、また教育者としての人生は、日本で始まったのです。日本に来て、日本語を覚え、日本人のものの考え方を知りました。

 また、丁寧に根回しをしながら意思決定をしていくことや、年上を敬うという日本の文化に触れながら、人と人とが様々なバリアを越えて理解しあっていくという経験を5年間もしています。その経験があるため、彼は心の底からダイバーシティの価値を信じています。「ダイバーシティは楽しい」「ダイバーシティは創造的である」ということが彼の基本的な理念になっています。

 彼には、国や地域に対する偏見がまったくありません。彼の奥さんは日本人ですし、お子さんのうちの一人は今、日本で働いています。私はフランスに住んだことがあり、「フランス人はこういうものだ」という先入観を少しは持っているのですが(笑)、彼はその範疇から外れていて、はるかにオープンです。

 彼はいま世界中の企業の経営者と会っています。世界中のすぐれた人たちと議論をし、世界中の企業の幹部を教育しています。それでいて、「尚志、ビジネスの90%は人間関係なんだよ」なんてことを言うんですよ。「これはどの国でも同じなんだよ」ってね。まるで、日本人みたいでしょ(笑)。

――上司としてのテュルパン学長はどのような人物ですか。

高津 もちろん厳しさもありますが、極めて温かい上司です。目標設定はきちんと行いますし、目標を達成するための具体的な行動も強く求められます。そういう意味では厳しい上司です。ただ、それ以上に温かさを感じます。

 彼のところには毎日ものすごい数のメールを読んでいるはずなのに、何か報告をすると、短い言葉でも必ず返事が戻ってきますよ。いい仕事をしたら「Good job!」「Thank you.」と返事が来て、心配事について相談すると「これについては、この点を考えよう」とアドバイスが返ってきます。部下としては、いつも見守ってくれているという実感を持ちながら仕事ができます。

 それでいて、任せるところは任せてくれます。「君を信頼しているから、ここは好きにやってくれ」みたいにね。そういう意味では仕事はしやすいです。同じように思っているメンバーも多いと思います。

――高津さんは彼との共著『なぜ、日本企業は「グローバル化」でつまずくのか』(日本経済新聞出版社)を出版されています。そこからは、日本企業の発展に寄与したいという、テュルパン教授の強い想いを感じました。

高津 この本に書かれたメッセージは、テュルパンがいま日本のビジネスパーソンにいちばん伝えたいと思っていることです。彼は、マーケティングに関する革命的なアイデアを提供したと記憶される人物ではないかもしれません。けれども、日本での経験を踏まえ、そしてまたIMDの教授として、世界中で起こっているマーケティング上の面白い現象に着目して、そこから示唆を抽出することはものすごくうまい。そこにはまぎれもなく彼の価値があります。

次回更新は9月2日(火)を予定。 

 

【編集部からのお知らせ】

9月24日・25日の二日間、世界中からマーケティングの巨星が結集!

ワールド・マーケティング・サミット・ジャパン 2014

日程:2014年 9月24日(水)10:00~18:45(予定)
       9月25日(木)9:30~17:40(予定)
会場:グランドプリンスホテル新高輪「北辰」
登壇:フィリップ・コトラー、デビッド・アーカー、アル・ライズ、ドン・シュルツ、高岡浩三(ネスレ日本代表取締役社長兼CEO)、新浪剛史(サントリー顧問 10月1日サントリーホールディングス株式会社CEO就任予定)、吉田忠裕(YKK代表取締役会長)、魚谷雅彦(資生堂代表取締役執行役員社長)ほか。
申込:お申し込みはこちらから。
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詳細http://worldmarketingsummit.jp/
 

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