「マインドフル・リーダーシップ」のすすめ

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「マインドフルネス」とは、「いまこの時」に向き合うことで状況や全体像、変化を敏感にとらえる行為だ。ビジネス界では以前からその効用が注目され、2012年にはダボス会議で初めて取り上げられた。本誌2014年9月号の特集「一流に学ぶハードワーク」に合わせ、HBR.ORGのマインドフルネス関連記事を4回にわたってお届けする。第1回は、この分野における第一人者エレン・ランガーがリーダーシップとマインドフルネスの関係を説明する。


「マインドフルネス」の対極である「マインドレスネス」は、どの組織にとってもマイナスである。それはリーダーシップに関する疑わしい前提を生んできた。具体的には、①リーダーは信頼に足る特別な能力と知識(一般に「リーダーシップ・コンピテンシー」と呼ばれるもの)を持っている、②人々は目標を達成するために、リーダーに率いられる必要がある、という前提だ。

「マインドフルネス」とは、新しい物事に気づくという単純な行為を指す。もしこれを組織が実践しているなら、リーダーシップはまったく違ったものになるはずだ。自身がマインドフルであるよう努めるだけでなく、部下がマインドフルになれるよう後押しすることがリーダーの最も重要な役割となる。ますます複雑さを増すこの世界――1つの仕事が部門の枠を超えて波及する環境――では、「マインドフルネスの拡散」こそがリーダーの唯一の役割であるとさえいえるかもしれない。

 私たちは気づくという行為によって、物事の背景に対して敏感になり、変化と不確実性を感じ取るようになる。反対にマインドレスな状態では、認識を一定に保とうとする。そして思考が固定化しているだけなのに、物事が安定しているものと勘違いしやすくなる。その状態を保とうとしても構わないが、それでも物事は変化しているのだ。

 自分たちのリーダーをどれほどビジョナリーであると信じても、彼らが他の誰か以上に将来を予測できるということはない。もし状況が不変であるならば(当然そうではないが)、起こりうる物事をたいていの場合は予測できるだろう。しかし私たちにとって肝心な「個々の出来事」を予知することはできない。誰かがXという行為をしたらほとんどの場合はYという結果が生じるとしても、次回あなたがX=Yとなる保証はない(あなたはメルセデスを優れた自動車メーカーと信じていることだろう。では、メルセデス車をどれか1台選び、エンジンが絶対に1発でかかる、という賭けに全財産をつぎ込めるだろうか?)。

 権力を持つ職位にある者は、知らないことに関しては口をつぐんでいることが多い。リーダーは「知らない」という個人的な属性について、「私は知らないが、知ることはできるし、知らねばならない」という防御的な姿勢で認識するべきではない。不確実性というものの普遍的な本質、つまり「私はそれを知らないが、あなたも知らない。なぜならそれは知ることができないものだから」ということを示す必要があるのだ。この普遍的な限界を受け入れれば、何もかも知っているかのように振る舞うことに気を取られず、目の前の問題に取り組めるようになる。「いまこの瞬間」に目を向けることで、いま何を知る必要があるのかを学ぶことができる。

 リーダーはすべてを知ることはできない。それでよいのだ。

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