起業を促進する「ベンチャー生態系」:
その誤解と現実

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起業家精神が醸成・維持される環境、すなわち「ベンチャー生態系」はどうすれば活性化できるのか。バブソン・カレッジで起業プラクティスを教える筆者ダニエル・アイゼンバーグが、ベンチャー生態系にまつわる10の事実を明らかにする。ベンチャー企業の増加、エンジェル税制、起業教育などはいずれも生態系の必須条件ではない――こんな驚きの事実が挙げられている。起業促進政策の再考を促す内容だ。


 起業家精神の促進は、世界中の国々や都市で経済成長の核となる要素である。そのことを最も象徴する言葉が、「ベンチャー生態系」だ(entrepreneurship ecosystem:筆者の定義によれば、起業を後押しする「文化、政策とリーダーシップ、資本源、人材、市場、機関/インフラのサポート」の6要素で構成される) 。しかしどれほど画期的な概念でも、普及するにつれて誤解や迷信もついて回るようになる。

 そこで、ベンチャー生態系、および起業と経済成長の関係について、実態をより大局的に把握するための簡単な◯☓式テストを用意した。これらを正しく理解することは重要である。なぜなら優先政策としての起業促進は、過去に起こった期待外れの試み――押しつけの産業政策、成果が出ない「産業クラスター」戦略、マクロ経済の枠組み条件(いわゆる「ワシントン・コンセンサス」)ばかりを重視したことによる失敗――と同じ道をたどりかねないからだ(起業促進はそれらに対する部分的な解決策でもある)。ベンチャー生態系の勢いが失われるのを防ぐには、この言葉の本当の意味をしっかり理解する必要がある。

1.ベンチャー企業の数が増えているのは、強固なベンチャー生態系ができている証である。

 答えは☓。ベンチャー企業の増加、もしくは新規ビジネスの立ち上げ数の増加が、経済成長を促進しているという証拠はないが、その逆、つまり経済成長が起業と事業創造を促進しているという証拠はある。また、小規模な企業の数が、国の経済の健全性に反比例していると考えられる根拠もある(英語論文)。そしてカウフマン財団の最近の調査結果によると、アメリカ経済が上向きになり安定した職が増えるにつれて、起業の数は減っているという(英文記事)。これらを見ると、ベンチャーを支援することは有益な政策ではないのかもしれない。(注:小規模なベンチャーを無作為に支援するのではなく、将来性の高いベンチャーを優先すべきというのが筆者の主張である。詳しくは前回の英文記事および本誌2011年11月号『ベンチャー国富論』を参照。)

2.初期段階のベンチャー企業に対する高リスクの投資を促進する財政的インセンティブ(例:エンジェル税制)は、間違いなくベンチャー生態系を活性化する。

 答えは☓。エンジェル税制はいまでは随所で見られるが、それがプラスの影響をもたらしているという評価は、あるとしてもきわめて少ないのが現状だ。この種の政策で最も古いものの1つは、1994年にイギリスで始まったEIS税制(ベンチャー企業に直接投資した個人投資家に対する税制優遇措置)だ。ある調査によると、この措置によって経験の浅い投資家の少額投資(1万ドル未満)が大きく増えたが、そのリターンは優遇対象外の投資より低かったという。ベンチャーキャピタルによる投資の大部分は、カリフォルニア州、ニューヨーク州、マサチューセッツ州、およびイスラエルで行われているが、これらの投資は利益の全額が課税対象になり、直接的な財政的インセンティブはない。

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