なぜフィリップ・コトラーは
80歳を超えてなお、新しい概念を提唱できるのか

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今日のマーケティングの礎を築いたフィリップ・コトラーは数々の教科書本を出版してきた。この一連の著書を見ると、コトラーが偉大なマーケティング学者だったばかりか、偉大なマーケターだったことがわかる。9月に東京で開催されるワールド・マーケティング・サミットが開催されるのを記念し、コトラーが在籍するノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院の卒業生が、コトラーの業績を語る。

 

アカデミアの価値観vsビジネスの価値観

 コトラーの真価はどこにあるのか、また、それを生み出しているのはどんな行動原理・人格なのかを筆者の思い出とともに語ってみたい。

 最近、STAP細胞問題で話題になったが、他人が書いたものをあたかも自分が書いたもののようにコピペをすると「剽窃」という大犯罪になるのがアカデミアの掟である。

 その背後には、「どれだけオリジナルな発見や概念提示があったかが何より重要である」というアカデミズムの価値観がある。オリジナリティを主張するために先人の業績を丹念にレビューし、それら先人の業績の上に自分が何を追加的に積み上げたかを示さねばならないので、正しい引用の作法に従う必要があるのだ。

 アカデミアにおいては、どんなに狭い領域であっても「オリジナルな研究をする」ことが至上の価値である。このルールゆえ、学者は専門を細分化してでも、オリジナリティを主張しようとする。それにより学問はどんどん専門分化し、かつて同じ学問であったはずの領域との風通しはどんどん悪くなっていってしまう。

 一方、ビジネスにおいては、若い頃は専門性を身につけることが奨励されるが、組織の中核となっていくと、専門性よりも幅広い判断力が求められるようになる。専門的なことは専門家に分析・説明させておいてでも、最後の意思決定を自分でしなければならないのがマネジメントなのである。

 ビジネスの問題にはえてして様々な要素があり、不確定なことも多く、情報も十分ではないため、意思決定は簡単ではない。それでもなんとか総合的に判断して、適切なタイミングで意思決定をしなければならない。特に会社の社長ともなれば、どんな問題でも最終的には総合的に判断して意思決定をし、自分が出した結果には責任を負わねばならないのである。

 つまり、「分析」がアカデミアの本質であるとすれば、「総合」こそがビジネスの本質なのである。

独創性の重要性

 前述したアカデミアでのルール上の競争のため、学者は「専門」を大事にし、その専門における業績とともに記憶され、特に大家ともなると学説や概念とともに記憶される。カール・マルクスなら労働価値説、上部構造と下部構造、階級闘争、唯物史観、ジョン・メイナード・ケインズなら有効需要、ヨーゼフ・シュンペーターならイノベーション、ミルトン・フリードマンならマネタリズム、マイケル・ポーターなら5フォースとバリューチェーン、ダニエル・カーネマンなら行動経済学とプロスペクト理論、野中郁次郎なら知識経営、暗黙知と形式知、SECIモデル、藤本隆宏ならモジュラーとインテグラルといった具合である。

 コトラーと言えばSTPと4Pが有名だが、本連載で岸本義之が指摘したように、4Pはマッカーシーがオリジナルであり、セグメンテーション・ターゲティングはウェンデル・スミス、ポジショニングもアル・ライズ&ジャック・トラウトが作った概念である。

 コトラーの著書『マーケティング・マネジメント』の章構成を見ると、マーケティングのありとあらゆる学説・分野がカバーされており、おおよそオリジナルな学説を唱えその学説で他の学説と戦って勝ち残ってきた、というイメージとは遠いのがコトラーである。

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