コトラーは最高のマーケティング学者であると
ともに最高のマーケティング戦略家

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今日のマーケティングの礎を築いたフィリップ・コトラーは数々の教科書本を出版してきた。この一連の著書を見ると、コトラーが偉大なマーケティング学者だったばかりか、偉大なマーケターだったことがわかる。9月に東京で開催されるワールド・マーケティング・サミットが開催されるのを記念し、コトラーが在籍するノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院の卒業生が、コトラーの業績を語る。


「経済学者や経営学者の中で、事業家に転じて名経営者になった者はいない」、「まともに経営ができている経営学部はない」などと紺屋の白袴であることが当たり前のように言われる。しかし、そのような中でもコトラーは、自らのマーケティング戦略を、見事に実行してきた希有な例と見ることができる。

消費経済学でなくマーケティング

 ポジショニングとは、消費者の頭の中にいかに自分の商品を位置づけるか、ということだ。通常、消費者はその商品を自ら勝手に自分の軸で位置づけてしまうものだが、企業側が意図を持って戦略的にポジショニングをすることも可能である。

鳥山 正博
(とりやま・まさひろ)

立命館大学 経営大学院教授。専門は、マーケティング戦略、マーケティングリサーチ、エージェントベースシミュレーション。 国際基督教大学卒(1983)、ノースウェスタン大学ケロッグ校MBA(1988)、 東京工業大学大学院修了、工学博士(2009)。 1983より2011まで株式会社野村総合研究所にて経営コンサルティングに従事。主な著書に『社内起業成長戦略』(マグロウヒル 2010 監訳)「企業内ネットワークとパフォーマンス」(博論 2009 社会情報学会博士論文奨励賞) 「エージェントシミュレーションを用いた組織構造最適化の研究 : スキーマ認識モデル」(電子情報通信学会誌 2009)などがある。

 その見事な成功例は日清食品の「カップヌードル」である。

 今や誰もが、インスタント麺には大きく分けて、袋麺とカップ麺があり、「カップ麺の代表的銘柄がカップヌードルである」と、当たり前のように認識している。しかし、当時もし「出前一丁、カップ入り」という打ち出しがされていたら、あっという間に「サッポロ一番、カップ入り」やら「チャルメラ、カップ入り」等が乱立し、カップ麺は単なるパッケージバリエーションになって、今のカップヌードルの世界は存在していなかったろう。

 日清カップヌードルはそのポジショニングを狙っていたからこそ、従来のインスタントラーメンを想起させるものは一切持ち込まず、ラーメンどんぶりをイメージさせない縦長の容器で提供したり、フォークで食べさせたり、CMで外国人に楽しそうに戯れさせたり、積極的な自販機戦略を展開したりしたのである。まさにポジショニングをはっきりさせたが故にマーケティングミックスが首尾一貫したといえよう。

 一旦カップヌードルが新カテゴリーを確立するや、そこでのナンバーワンとして、他のカップ麺が追随してきても、それはカップヌードルの亜流以上にはならなかったのである。これこそポジショニング戦略の勝利だろう。

 さて、コトラー自身は、シカゴ大学でミルトン・フリードマン、MITでポール・サミュエルソンとロバート・ソローという、3人のノーベル経済学賞学者に師事し、世界最高レベルの経済学を学んだ。1956年にMITで博士号を取った後、ポスドクではハーバードで数学を、シカゴ大では行動科学を学んでいる。その後1967年には、後にコトラーの名声を轟かせることになる『マーケティング・マネジメント』の初版を上梓している。

 ここからは筆者の解釈である。コトラーは、そのまま経済学者として消費者研究を行なっていれば、経済学の一部門としての「消費経済学」の代表的な学者というポジショニングになっていたであろう。しかしそれでは、師を超える成功はあり得ない。

 そこで彼は、「マーケティング」という新しいカテゴリーのナンバーワンというポジショニングを狙ったのではないかと考える。実際にコトラーは、行動科学、数学、組織論をしっかり学び、社会科学的な基礎の弱かったマーケティング界にアカデミックな裏付けを与えることでイノベーションを起こし、モダン・マーケティングの祖となった。マーケティングミックスという具体策の前に、STP、とりわけP(ポジショニング)を定めることが何より重要だということを、自ら実現して見せたのだ。

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