現代版「ナッシュ均衡」は発掘できるのか
評価軸の明確化で生まれる可能性とリスク

早稲田大学ビジネススクール准教授・入山章栄×立命館大学経営学部国際経営学科准教授・琴坂将広

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入山氏はアメリカのピッツバーグ大学で、琴坂氏はイギリスのオックスフォード大学でPh.D.を取得した。経営学者は論文数を重視すべきなのか、それとも実務に寄与すべきなのか。アメリカとヨーロッパの違いだけでなく、入山氏と琴坂氏それぞれの経営学に対するスタンスの違いが明らかになる。全4回。

アメリカで出会った“ふわふわ軍団”との攻防

入山 僕は経済学から経営学に進んだときに、正直に言ってまったく馴染めなかった。もともと経済学の思考体系になっているから、最初の半年くらいは、「こいつらなんで、こんなにふわふわした話をしているんだろう……」と思いましたよ(笑)。それも英語でしょ。数学であれば、黒板に数式を書きながら会話ができる。経済学では、英語よりも数学のほうが圧倒的な共通言語だった。それが経営学では、ふわふわした哲学っぽい話を饒舌にされたから馴染めなかった。

 よく覚えていることがあって、前回も話をした教授のセミナーで「競争優位の概念にマイナスはあるか」という議論をしたことがありました。理由は覚えてないけど、突然その議論になってさ。教授は「ある」と主張していた。博士課程のセミナーだから学生は5、6人だけど、僕を除く全員が「そんなものはない」と主張したのね。

入山 章栄(いりやま・あきえ)
早稲田大学ビジネススクール 准教授
1996年慶應義塾大学経済学部卒業、98年同大学大学院経済学研究科修士課程修了。三菱総合研究所で主に自動車メーカーや国内外政府機関への調査・コンサルティング業務に従事した後、2003年に同社を退社し、米ピッツバーグ大学経営大学院博士課程に進学。2008年に同大学院より博士号(Ph.D.)を取得。同年より米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネス・スクールのアシスタント・プロフェッサー(助教授)に就任。2013年から現職。専門は経営戦略論および国際経営論。主な著書に『世界の経営学者はいま何を考えているのか』(英治出版)がある。

 そうしたら、先生が怒っちゃって。ピュアな人だったから真っ赤になって「絶対ある!」と反論し始めた。僕は中立、でも本音では「どうでもいい」という立場だった。経済学から移ったばかりだったので、「本当にこいつらどうかしてるよ」「早く家に帰ってご飯たべたいな」くらいに思いながら聞いていました(笑)。いまでも僕は半分くらい馴染めていないかもしれない。

琴坂 異分野からこの世界に入ってくると、不思議さがほんとわかりますよね。私も泥作業とはいえ、自分で小さな会社をやっていました。またコンサルタントとはいえ、大企業のなかにガチガチに入ってビジネスプランをつくり、モノを売ることをやっていたので、この世界の作法になかなか馴染めなかったのを覚えています。

 経営の現実を知っている状態で論文のエレガントな数字を見ると、たしかに全体はこうなっているかもしれないけど、それを知ることにどんな意味があるんだろう、って。経済学や経営学が実学としての貢献を目指すのであれば、両方がなければダメだと思います。ただ、とくにパブリケーションの世界では数式が中心ですよね。

入山 なるほどね。でも僕は、そのあたりは琴坂くんとスタンスが違っていると思う。僕はむしろ、経営学はふわふわ過ぎるので、もっと数学や論理学を駆使して議論するべきだと感じています。たぶんこれはアメリカの博士課程ににいたときにたくさん“ふわふわ軍団”を見ているからかもしれない。お前らが言っていることはグラフで書くとこうだ、お前らが30分議論したことは数学や論理学を使うとスッと書けると言ってしまう。

琴坂 ちなみに、そのときのほかの博士のリアクションは?

入山 黙っちゃう(笑)。たいして英語もうまくない日本人が何を言っているんだと。

琴坂 いやはや、こう考えると、両方のコラボレーションがうまく進まないとすれば、本当に問題です。

入山 そうかもしれないですね。

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