堅実な「リスク回避型」の人が、
危険なリスクテイカーに変わる時

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モチベーション科学で「予防焦点型」に分類される人は、慎重に仕事を進め、損失回避に努める。だがこれは、あくまで「平時での話」。恐ろしいことに、いざ危機や損失が発生すると、逆にリスクを厭わなくなるというのだ。危機管理への教訓となる研究結果を報告する。


 人間は一般にリスクをあまり好まない。ノーベル賞を受賞した心理学者ダニエル・カーネマンはこう書いている。「ほとんどの人は、150ドル獲得できるという期待よりも100ドルを失う恐怖のほうに強く心を動かされる。[エイモス・トベルスキーと私は]数多くの観察結果から、『損失は利得よりも大きく見える』ため、人間は損失を強く嫌うという結論に達した」

 損失を嫌うという現象を裏付ける証拠はたくさん挙げられている。しかしカーネマン自身がこの傾向を説明するにあたって「ほとんどの人は」としており、「すべての人」とは言っていないことに注意しよう。コロンビア大学のトーリー・ヒギンズによる20年にわたる研究によれば、一部の人が特にリスクを嫌う、と言ったほうが正確なようである。その理由は、神経質だったり被害妄想を持っていたり自信がないためではない。自分の目標を「現状を維持し物事をスムーズに進める機会」と見なしているからだ。ヒギンズが「予防焦点」と呼ぶこうした志向を持つ人は、何かに夢中になること、楽観すること、ミスを犯すこと、賭けに出ることを強く忌避する傾向がある。そうでない人々は「促進焦点」を持ち、自分の目標を「進歩を成し遂げいまより向上する機会」だと見なしており、成功した場合に得るものが大きければリスクを取ることをさほど厭わない(詳細は本誌2014年9月号論文「挑戦欲で動く人、責任感で動く人」を参照)。

 コロンビア大学のモチベーション・サイエンス・センターの研究によれば、予防焦点を持つ人々は仕事をゆっくり慎重に行い、商品を選ぶ時は「カッコよさ」や高級感よりも信頼性を重視し、投資を行う時はハイリスク・ハイリターンなものより堅実なものを好む傾向がある。ハーバード大学教授のフランチェスカ・ジーノとジョシュア・マーゴリスが行った研究によれば、予防焦点型の人は促進焦点型と比べて、倫理的かつ正直な振る舞いを見せることが多い。ただしその理由は、予防焦点型のほうが倫理的だということではなく、ルールを破った結果ひどい目に遭うのを恐れているためである。

 運転の仕方も違う。オランダのフローニンゲン大学の研究者らによる実験では、ある保険会社の顧客の車にGPSを装着し、運転の仕方を観察した。予想通り、予防焦点を持つ人は、促進焦点を持つ人よりもスピードを出す傾向が低かった。別の実験では、予防焦点型の人は車線が合流する時、車間距離が広めでないと安心できないことが示された。

 近年の不況をもたらした原因に関する議論では、過剰なリスクテイク(アラン・グリーンスパンの「根拠なき熱狂」という表現が有名)への言及が多く聞かれる。だからあなたは、予防焦点型の人が不況を招いた責を問われるはずはないと考えることだろう。しかし、それは間違いである。

 予防焦点型について上記に述べた特性はすべて、物事がスムーズに進んでいる時――現状で問題ない場合に当てはまる話なのだ。このことが、「知らない悪魔よりも馴染みの悪魔のほうがまし」(たとえ既知のものが好ましくなくても、未知のものよりはまし)という姿勢につながる。予防焦点型の人々が損失を被る危険に実際に直面した時――そして、その損失を防ぐためにはリスクを伴う方法しかないと彼らが考えた時、話はまったく変わってしまうのだ。

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