星野リゾートの事例で考える
「モチベーション」と「やる気」の大きな違い

組織の活性化に必要な「見極める力」【第1回】

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早稲田大学ビジネススクールの教授陣がおくる人気連載「早稲田大学ビジネススクール経営講座」。4人目にご登場頂くのは、組織行動学、人材マネジメント論がご専門の竹内規彦准教授だ。組織の中の人の問題を考える際にカギとなる「モチベーション」「目標設定」「理念浸透」の3つのキーワードを軸に、リーダーに求められる「見極める力」を計3回に渡って考える。

「モチベーション」は「やる気」と同義か

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竹内規彦(たけうち・のりひこ) 早稲田大学ビジネススクール准教授。 愛知県名古屋市生まれ。2003年名古屋大学大学院国際開発研究科博士課程修了。博士(学術)学位取得。東京理科大学経営学部准教授、青山学院大学大学院経営学研究科(戦略経営・知的財産権プログラム)准教授等を経て、2012年より現職。 組織行動学・人材マネジメント論を専門とし、国内外の主要学会にてベストペーパーアワード等を多数受賞。米国Association of Japanese Business Studies前会長。

 組織の中の人の問題を考える際に、社員のモチベーションを課題として挙げる企業の経営者やマネージャーの方々は非常に多い。そもそも、この「モチベーション」とは、一体どのようなものなのか。日々多忙な業務の中で、このような問いについて考えることは、あまりないかもしれない。しかし、このことを突き詰めて考えると、意外にもこれまで当然の如く社員のモチベーションを上げる施策として実践されてきたことが、必ずしも効果的であるとは限らないことに気づかされる。あるいは、まだまだ実践していないモチベーション向上のための身近な仕掛けや心掛けが、多々あることに気づくかもしれない。第1回目では、モチベーションの本質を考えてみる。

 「モチベーションとは、一体なにか」について、皆さんはどのようにお考えだろうか。多くの社会人の方々がそれを「やる気」や「意欲」と認識していると思われる。果たして本当にそうだろうか。ひとつ例を挙げて考えてみよう。

 ある老舗温泉旅館での話である。その旅館は多額の負債を抱え、旅館の経営は他の経営者に委ねられた。大勢の宿泊客が足を運んでいたかつての賑わいは影をひそめ、閑散とした状況が続いていた。その旅館には60名ほどの従業員が勤務しており、皆歯がゆい思いをしていた。お客様に喜んでもらえるサービスを提供したいのに、それができない。どうしたらお客様に喜んでもらえるのかわからない。旅館のサービス向上に向けて従業員が集まって会合を開くものの、お互いに意見がかみ合わず、空回りの連続。お客様に喜んでもらいたい、お客さんに選んでもらえる旅館にしたいという意識は皆強く持っているのだが、どうしたらよいのか……。

 さて、このような状況は、従業員のモチベーションが高い状況といえるだろうか。確かに、一人一人が顧客の方向に向いて、なんとかして現状を打開したいという意識を持っている。もしも仮に、モチベーションを「意欲」や「やる気」と同義とすれば、この状況はモチベ―ションが高い状況と考えられるだろう。

 しかし、心理学ではこの状態をモチベーションが高い状態とは考えないのが一般的である。心理学ではモチベーションは、「欲求(needs)」、「動因(drive)」、「行動(behavior)」のそれぞれを含む概念であり、個人のある欲求が具体的な行動に至るまでの持続的なプロセスとして捉えるのである。すなわち、「~したい」という特定の欲求は、「何をするか」という行動選択(これを心理学では「動因」と呼ぶ)を伴い、その選択した行動を「実際にする」ことで、初めてモチベーションの高い状態が形成されると考えられている。

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