VUCA世界の容赦ないプレッシャーから
リーダーが自分の身を守るには

世界のリーダーに求められるセルフ・マネジメント(第1回)

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エグゼクティブの忙しさは加速度的に増している。度重なる海外出張、どこまでもつながってしまう携帯やメール。意思決定も複雑化する一方である。そのような重圧の下、リーダーはどのように自身の集中力や心身の健康を維持し、自らをモチベートし続けていくのか。スイス・ローザンヌに本拠を置くビジネススクールIMDで開催されたエグゼクティブ・プログラムOWPを取材した。本誌9月号特集「一流に学ぶハードワーク」特集の関連連載(全3回)。

 

世界的に増える、エグゼクティブの燃え尽き症候群

 近年、VUCAワールド、という言葉がエグゼクティブ層の間でよくささやかれる(VUCA: Volatility, Uncertainty, Complexity, Ambiguity)。元は軍事用語であるが、不安定で不確実性が高く、複雑かつあいまいな状況の中で、今日のエグゼクティブがタフな意思決定を迫られていることの証左だろう。リーダーのなすべき仕事も、業績を上げ予算を達成する、内外に長期的なビジョンを明確に示す、部下の能力を引き出し最高の成果を出させるなど多方面にわたり、そのいずれもが一筋縄ではいかない。精神的・心理的負担は増す一方である。そして物理的にも、グローバル・ビジネスの推進に伴って海外出張が増え、モバイルツールがプライベートな時間を侵食し、リーダーの気力、体力、エネルギーを容赦なく奪っていく。

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マイケル・ウェイド氏
IMD教授であり、OWPプログラムの統括責任者。専門は戦略、イノベーション、情報管理。

「今日のエグゼクティブは絶え間ないプレッシャーにさらされ、スイッチが入りっぱなしの状態にある。ワークライフバランスの重要性が説かれて久しいが、とうてい現実味が感じられない。燃え尽き症候群は確実に増えており、自殺も少なくない」とIMDのマイケル・ウェイド教授は語る。スイス・ローザンヌに本拠を置くIMDは世界有数のエグゼクティブ・プログラムを有し、とりわけ国際色が豊かなことで知られている。日本の自殺率が高いことはつとに有名であるが、「遺憾ながら、私の見る限り、これは世界的な傾向だ。ハードワークなうえに、恰幅がよくなりがちなこの世代は、自身のエクササイズや食事管理も不可欠であり、家族との時間、子どもの教育もある。エグゼクティブがすべきことはオンにオフに山積しており、すべてのバランスをとることは難しい」(ウェイド教授)。

 このような時代に、リーダーはどのように我が身を守り、かつ、自身のモチベーションを維持していけばよいのだろうか。ウェイド教授がそのような問題意識を募らせていたとき、IMDで毎年開催しているグローバル・リーダー育成のための短期集中プログラムOWP(Orchestrating Winning Performance)を統括することになったという。

「これまで学んできたようなマネジメントの理論はもちろん大切だ。しかし、身体、感情、メンタル、そして仕事と生活のバランスを欠いたままでは持続可能ではない。仕事の進め方ひとつとっても、これまでの左脳的思考から、アイデアや発想を豊かにする右脳的思考により重点が置かれつつあるなど、新たなマインドセットが求められている。いまここで、包括的な観点からリーダー自身がセルフ・マネジメントを再考すべき時ではないかと考えた」(ウェイド教授)。

 そうして決まったテーマが 「完全なるエグゼクティブ」だった。2014年6月、ローザンヌで開催されたOWP は、1日5コマ約12時間のなかで、グローバル・リーダー育成、組織変革、タレント・マネジメントなど関心のある授業を選択、一日の終わりは、今注目の著名人の講演で締める構成となっている。欧州、中東、アジアなど約50カ国から400人超のエグゼクティブが参加しており、アフリカのビジネス機会についての講座や、職場でできるエクササイズ、つなぎを着用する本格的ドローイング、レゴ、女王チャンピオンとのチェス対決など、のべ50コマ近くに上る。一見ビジネスと無関係のものもあるが、オンとオフ、頭脳と心身を切り離さず、地続きの体験とすることの相乗効果を企図したのだろう。「幸い、OWPの参加者は国籍豊かでバラエティに富んでいる。多様性がありつつ、生身の人間としての共通項もあり、互いに話し合うことから得られるものも大きい。日常から切り離され、枠の外(アウト・オブ・ボックス)で考えられるような仕組みを意識した」。

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