コマツ〈KOMTRAX〉とヤマハ〈VOCALOID〉
行動観察×ビッグデータで迫る事後創発の実際

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顧客インサイトを得る方法として、いま行動観察とビッグデータが大きな注目を浴びている。いずれも、顧客が無意識のうちに取るさまざまな行動の背後に潜む、暗黙知に迫る調査手法だ。グッズ・ドミナント・ロジック(G-Dロジック)からサービス・ドミナント・ロジック(S-Dロジック)への「価値づくり」の世界観の転換、とくに価値共創の事後創発性に焦点をあて、こうした手法を最大限に活用する可能性について考える。最終回。

行動観察やビッグデータの可能性と限界を知る

『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』(DHBR)最新号の特集にあるように、顧客インサイトを得る方法として、いま行動観察やビッグデータが注目を浴びつつある。今回はこの動向を、本連載で取り上げているG-DロジックからS-Dロジックへの転換、とくに価値共創の事後創発性に関連づけて考えてみたい。

藤川佳則(ふじかわ・よしのり)
一橋大学大学院国際企業戦略研究科准教授
一橋大学経済学部卒業、同大学院商学研究科修士。ハーバード・ビジネススクールMBA(経営学修士)、ペンシルバニア州立大学Ph.D.(経営学博士)。ハーバード・ビジネススクール研究助手、ペンシルバニア州立大学講師、オルソン・ザルトマン・アソシエイツ(コンサルティング)、一橋大学大学院国際企業戦略研究科専任講師を経て現職。専門はマーケティング、サービス・マネジメント、消費者行動論。
Harvard Business Review (Harvard Business Press)、『一橋ビジネスレビュー』(東洋経済新報社)、『マーケティング革新の時代』(有斐閣)、『マーケティング・ジャーナル』(日本マーケティング協会)などに執筆。訳書に『心脳マーケティング』(ダイヤモンド社)がある。

 まず、行動観察もビッグデータも万能ではない。

 そもそも調査手法において、どれか一つの手法が他のどの手法よりも優れているということはない。これはマーケット・リサーチの基本だ。したがって、どのような調査手法も、その長所と短所を知ったうえで用いることが重要であり、使う側のリテラシーが求められる。

 行動観察の長所は、DHBR最新号で松波晴人氏(大阪ガス行動観察研究所常務取締役)が論じられているように、顧客が無意識のうちに取るさまざまな行動を詳細に観察することを通じて、顧客も気づいておらず、自社も気づいていない未知の事象に関して仮説構築を進めることにある。

 一方、その短所の一つに、観察する側のバイアスや、行動する側のバイアスの課題がある。

 観察する側のバイアスとして、観察の視点や解釈が、観察者の能力や主観に左右されることがある。ある観察者が見れば気づくことでも、別の観察者は見落としてしまうこともある。また、行動する側のバイアスとして、ある顧客が取る行動に先進性があると思われる場合でも、そうした行動が調査対象となった人たちだけの特異性の高いものである場合には、その解釈から導き出されるインサイトを実際の事業に活用する際に注意を要する。

 これに対してビッグデータの特徴は、同号で安宅和人氏(ヤフーチーフストラテジーオフィサー)が解説されているように、膨大な量(Volume)、高い多様性(Diversity)、発生するスピード(Velocity)にある。その長所は、データのカバレッジ(発生事象の全量解析可能となること)や、リアルタイム性(特定の顧客行動やニーズ発生のその瞬間をとらえられること)を通じて、一見しただけではわかりにくい現象間のつながりや傾向、パターンを見出すことにある。

 一方、その短所は、安宅氏が「属性の厚み」と表現される、顧客の利用文脈(どういう状況で、どういう理由や目的でその活動が行われたのか、など)やユーザーの意識(態度や思考、感情など)の詳細がわからないことだ。

 このように、行動観察もビッグデータも、その長所と短所を知ったうえで、組み合わせて活用することが重要である。そして、その長所を最大限に活かすことができる局面として、企業と顧客による価値共創の現場、とくに事後創発のプロセスに焦点をあてることを提案したい。

 価値共創の多くに当てはまるが、それを開始した初期の段階では、企業側も顧客側もその全貌が見えていないことがある。そのため、市場に導入した後に企業活動と顧客行動を通じてわかることをどうマネジメントするかが大事となる。

 コマツの〈KOMTRAX〉(コムトラックス)とヤマハの〈VOCALOID〉(ボーカロイド)を例に、価値共創の事後創発性について見てみたい。

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