サービス・ドミナント・ロジック:
先進企業事例に見る「価値づくり」の世界観

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昨今、企業と顧客が一緒になって価値をつくり出す「価値共創」が大きな注目を浴びている。なぜ、このような動きが加速しているのか。そこには「グッズ・ドミナント・ロジック」(G-Dロジック)から「サービス・ドミナント・ロジック」(S-Dロジック)への転換という、従来とは異なるサービス観に基づいて経済活動や経営論理を捉え直そうとする大きな議論の流れがあった。
本連載は「サービス・マネジメント」の第一人者である一橋大学大学院の藤川佳則准教授が、〈無印良品〉や〈ウェザーニューズ〉、〈KOMTRAX〉などの事例を交えながら、競争優位の源泉となる価値共創の論理をひも解いていく。また、近年話題の行動観察やビッグデータなど、顧客の無意識や暗黙知に迫る手法との関連についても考察する。全3回。

モノとサービスは競合し、協力し、融合しつつある

 私の専門の一つに「サービス・マネジメント」という分野がある。

 比較的若い学問分野だが、その発展の歴史を見ると、大きく二つの段階に分けることができる。初期の発展は、1980年代から2000年代半ばにかけてである。この時期は、モノとサービスの違いを強調することによって、だからこそサービスに関する研究が重要だとして、新しい研究領域を立ち上げようとしていた。

藤川佳則(ふじかわ・よしのり)
一橋大学大学院国際企業戦略研究科准教授
一橋大学経済学部卒業、同大学院商学研究科修士。ハーバード・ビジネススクールMBA(経営学修士)、ペンシルバニア州立大学Ph.D.(経営学博士)。ハーバード・ビジネススクール研究助手、ペンシルバニア州立大学講師、オルソン・ザルトマン・アソシエイツ(コンサルティング)、一橋大学大学院国際企業戦略研究科専任講師を経て現職。専門はマーケティング、サービス・マネジメント、消費者行動論。
Harvard Business Review (Harvard Business Press)、『一橋ビジネスレビュー』(東洋経済新報社)、『マーケティング革新の時代』(有斐閣)、『マーケティング・ジャーナル』(日本マーケティング協会)などに執筆。訳書に『心脳マーケティング』(ダイヤモンド社)がある。

 サービス・マネジメントの初期の議論では、「同時性」「消滅性」「無形性」「変動性」などのサービスの特徴に焦点があてられた。サービスにはモノにはない固有の特徴があり、その特徴がもたらす経営課題がある、したがって、その課題を乗り越えるための経営論理を明らかにする必要がある、という議論だ。そこからいろいろなコンセプトやフレームワークが生み出され、学問分野としての発展が進んでいくことになる。たとえば、「サービス品質」や「サービス・エンカウンター」などの概念や、「サービス・プロフィット・チェーン」「サービス品質ギャップ・モデル」などの枠組である。

 しかし、モノとサービスは本当に違うものなのだろうか。

 現実世界に目を向けてみると、両者は当たり前のように競合することがある。あるモノが別のモノによって代替されたり、あるサービスが別のサービスに代替されるだけでなく、サービスがモノによって代替されることもあれば、モノがサービスによって代替されることもある。たとえば、スターバックスというサービスのビジネスと、ネスレの〈ネスプレッソ〉というモノのビジネスは競合する。〈ネスプレッソ〉を買うと、スターバックスでエスプレッソを飲む回数は減るだろう。また、ドライクリーニングというサービスのビジネスと、「洗えるスーツ」や「水を使わない洗濯機」というモノのビジネスも競合関係にある。

 モノとサービスはときに協力し合うこともある。たとえば、自動車というモノの普及は、燃料補給や保険商品など民間サービスの発展や、高速道路や道路標識などの公共サービスの整備と補完関係にある。広く、製造業の発展は、原材料の調達に必要なロジスティクス、設備投資に必要な金融サービス、在庫管理や販売物流など、様々な法人向けサービスの発展と相互依存関係にある。モノとサービスは互いに補い合う関係にあり、また、モノの発展がサービスの発展を促進したり、サービスの発展がモノの発展に寄与したりする。

 またモノとサービスは融合し、区別することが難しくなる。たとえば、アップルの〈iPod〉と〈iTunes〉や〈iPhone〉と〈iPhone〉アプリなどは、モノでもありサービスでもある。また、ユニクロはよく製造小売業と言われるが、〈ヒートテック〉〈ブラトップ〉〈ウルトラライトダウン〉などというヒット商品のモノの側面だけを見ていても、ユニクロの強さの一面を見ているにすぎない。ユニクロの強さのもう一面は、高業績の小売店舗を運営する組織能力にある。ユニクロの場合、累計数億枚の売上実績を誇る〈ヒートテック〉のような強い商品は、高効率の店舗経営を通じて世界中に販売され、高業績の店舗経営は強い商品があるからこそ実現される。これらをモノかサービスか、製造業かサービス業か、と分けようとすること自体、あまり意味をなさなくなる。

 モノとサービスの区別は、統計上や学術上の目的のために、人為的、便宜的に行われるのであって、実経済においてモノとサービスが区別され、互いに独立して存在しているわけではない。実際、モノとサービスは競合したり、協力したり、融合したり、など様々に関連し合い、相互に密接に絡み合っている。モノとサービスは異なるという前提で議論を始める限り、モノの経営とサービスの経営はいつまでたっても平行線をたどってしまう。

 そうして2000年代の半ばを迎える頃、モノとサービスを分けて経済活動をとらえようとしてきた従来の基本的な前提を見直し、モノとサービスを分けずに経営論理を組み立て直そうという大きな動きが生まれることになる。

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