消費者を知りたければ何人の声を聞くべきか

いまやマーケターにとって最も大きな課題は消費者インサイトの発掘と言える。消費者も知覚できていない、潜在的なニーズはどのようにすれば発掘できるのか。


 世間の動きを知るには、より多くの人の意見を聞くべき。これが世論調査の前提です。内閣支持率を知るには、「現政権を支持するか」という質問を100人ではなく1000人にした方がより国民の総意に近い結果が得られると考えるのは自然です。サンプル数が多くなればなるほど、真実に近い結果が得られると考えます。

 マーケティング・リサーチも同様の考えで進化してきました。大規模なアンケート調査を製品開発やネーミングの段階で実施する企業も珍しくありません。

 ところが、このような定量調査に対し定性調査の価値が注目されるようになったのは、いまから10年ほど前からです。当時、心脳マーケティングの大家、ジェラルド・ザルツマン教授が来日し講演をされました。そのとき聞いた話が忘れられません。

 ハーバード・ビジネススクールの教授でもあるザルツマンの専門分野は定性的なマーケティング・アプローチです。一人の消費者に徹底的に話を聞くデプス・インタビューの価値を話された後、「究極的には12人の顧客に話を聞けば、市場がわかる」とおっしゃいました。デプス・インタビューの効果は納得できても、この12人という数字に信じがたいものを感じました。

 最新号の特集「行動観察×ビッグデータ」を編集しながら、この時の驚きを思い出していました。今回、執筆してくださった大阪ガス行動観察研究所の松波晴人さんにザルツマン教授の話をしてみました。すると、行動観察の実践者の間では、調査すべき最低人数は「感覚的に8人」という人が多い、という話をされていました。ますます調査手法の精度が高まり、ついに一桁にまでなったのでしょうか。

 最低調査人数のことばかり考えていて、ふと気が付いたのは、内閣支持率と消費者ニーズの違いでした。前者は「支持する・支持しない」は本人に聞けば分かります(もちろん、逆の答えをする人もいるでしょうが)。ましてや「どちらでもない」という設問を用意することで、テーマへの関心度も測れます。ところがニーズは顕在化されているものだけとは限りません。携帯電話にどのような機能をつけてほしいかと聞いて、「カメラ」という答えは得られたでしょうか。自社の本で僭越ですが、ドラッカーの理論を女子高生を主人公にしたストーリーで読みたいというニーズは、どのような調査から得られるでしょうか。

 顕在化したニーズはともかく、潜在的なニーズを把握するには、データの数が問われるのではなく、そこから得られる結果に対する解釈の質のように思われます。

 従来の延長線上での成長はもはや望めません。顕在化されたニーズの追求はどこかで限界を迎える。取り組むべきは眠れるニーズ、消費者も気がついていないニーズの発掘です。その方法論は、行動観察かビッグデータか。本誌はその答えを提示するものではありません。どちらのやり方を使うにせよ、確実な事実がつかめないなかで「推論」する力が求められていることは間違いないでしょう。(編集長・岩佐文夫)

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