険悪な議論を建設的に:
「オキシトシン」の分泌がカギ

1

議論の際に、主張をけっして曲げずに自説を貫く人がいる。これは半ば自分の意思とは無関係に、脳が特定のホルモンによってハイジャックされているからであるという。コミュニケーションの最中に生じやすい身体的な反応をふまえ、健全な議論を行う秘訣を紹介する。


 あなたはきっと次のような経験をお持ちだろう。チームの会議に出席していて、空気は緊迫している。大きなプロジェクトに関する話し合いで、あなたは自分の立場を守るべく主張しているが、形勢は不利だと感じ始める。自分の声が次第に上ずっていくのがわかる。同僚の1人と議論になり、彼の見解が誤っていると指摘し正す。彼が言い返すと、あなたはさらに躍起となり自分が正しいことを全員に納得させようとする――。あたかも、自分の意思と無関係に体が勝手に動いていたかのようだ。そして多くの意味で、それに近いことが実際に起こっていた。神経科学の観点から見れば、あなたの脳はハイジャックされていたのだ。

 ストレスや恐れ、または不信感が高まると、神経伝達物質の一種であるコルチゾールというホルモンが脳内に多量に分泌される。すると、戦略や信頼構築、思いやりといった高度な思考プロセスを司る脳の実行機能が停止し、代わりに情動を司る部位である扁桃体が活性化する。つまり私たちの身体は、自己防衛――上述のケースでは、自分の過ちに伴う恥ずかしさ、および力の喪失から自身を守ること――に最も適した選択を行う。その結果、感情の制御や、期待と現実とのギャップの処理ができなくなるのだ。

 そして次の4つの反応のうち、いずれかを選ぶことになる。①闘争(己の主張を貫く)、②逃避(グループのコンセンサスに譲る)、③硬直(口を閉ざして、議論から離れる)、④なだめる(とにかく同意することで譲歩し、敵対者と友好関係を築く)。

 上記の反応はいずれも有害だ。情報や意見を率直かつ建設的にしづらくなるからである。しかし、コンサルタントとして数十年にわたり企業幹部のコミュニケーション能力向上を支援してきた私の経験から、こう断言できる。仕事上の関係にダメージを与えるという点で、①闘争反応は群を抜いている。しかも残念ながら、この反応は最も多い。

 その原因の1つには、前述とは別の神経科学のプロセスが絡んでいる。つまり、議論して勝った時には、アドレナリンとドーパミンというホルモンが多量に分泌される。その結果、気分がよくなり、有能感が高まり、無敵とさえ感じるようになる。それは誰もがもう1度味わいたいと願うような感覚だ。そこで、次に緊迫した状況に陥った時、再び闘争に走る。こうして私たちは、自分の正しさを証明することに病みつきとなる。

 私がコーチングを行ってきたリーダーのなかには、非常に成功しているがこの依存症を患っている人たちがたくさんいた。彼らは自身の見解を貫くための闘争にきわめて長けている(実際、その見解は正しい場合が多い)。しかし己の行為が周囲の人々に与える打撃には、まったく気づいていない。1人が自分の支配力に酔えば、他の人たちは服従を強いられ、前述した4つの反応を起こす。そして協力しようという意欲は減退する。

1
無料プレゼント中! ポーター/ドラッカー/クリステンセン 厳選論文PDF
Special Topics PR
今月のDIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー
最新号のご案内
定期購読
論文オンラインサービス
  • facebook
  • Twitter
  • RSS
DHBR Access Ranking