「いい人」タイプの上司が部下の能力を殺す

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権限委譲や自由裁量の重要性はしばしばクローズアップされる。しかし、過小管理の危険についてはどうだろう。ありふれているのに見過ごされているこの問題、つまり「いい人だが弱いマネジャー」の存在についてマキューンは注意を促す。


 クリスはシリコンバレーに本社を構える大手テクノロジー企業に勤務し、支援を惜しまない好意的なマネジャーの下で長年働いていた。実際、この上司は彼のことを絶賛していた。業績評価では最高の評価を与え、自由に仕事をさせ、いっさい管理しなかった。クリスの言葉を借りれば、「とんでもなく、どこまでもいい人」だった。これこそ理想の上司だと思われるだろうか。それは間違いである。

 同社に20年間勤めてきたこの上司は、組織の中で生き延びる術を学んでいた。あまり波風を立てず、問題を起こさないこと。みずからのポジションを守るための政治的な駆け引きには長けていたが、それは自分の評判を高めるほどのものではなかった。そして徐々に政治的影響力を失っていく。あげく、彼のチームはかつての規模から大幅に縮小された。

 上司の評判は、配下のチームメンバーにも負の作用をもたらした。それはクリスのキャリアにも甚大な影響を与えた。何度も約束されていた昇進が3回も見送られたのだ。この問題が生じたのは、上司が何かをやらかしたからではない。上司がやらなかったことが原因である。

 私は12カ月かけて、100社以上の1000人のマネジャーから彼らの経験に関するデータを集めた。対象企業にはアップル、シスコ、HP、IBM、インテル、マイクロソフト、ノーベル、シマンテックなども含まれている。彼らがキャリアのなかでも最高の仕事を成しえたのは、どのような条件の下であったかを知るためだ。調査を通して、行き過ぎた管理を行う独裁的なマネジャーの例が(悪しき経験として)挙げられるものと予想していた。約半数の回答者はこの予想を裏付けたが、残る半数の答えに私は驚いた。望ましくない上司として彼らが指摘したのは、「いい人だが弱いマネジャー」だった。

 以前に私が主催した2日間の戦略会議で、まさにこのような幹部に会ったことがある。彼は柔らかく静かな声で話した。誰かが話している時にはけっしてさえぎったりしない。会議室に入ると誰に対しても優しい言葉をかけた。会議中、チームによい意味でフラストレーションがたまり、次のレベルに進むために必要な変化を起こす気運が高まることがある。そのたびに彼は立ち上がって、優しくこんなことを言った――「皆さん、我々はすでにかなりの成果を上げています」。そしてもう二言三言話すと、情熱の火花は部屋から消え去ってしまった。現状でもまったく問題ない、さらなる努力や既存のやり方の変更は必要ない、というシグナルを彼は意図せずに発したのだ。彼を見ていると私は、ジム・ハッカー(イギリスのコメディードラマ「イエス・ミニスター」に登場する架空の政治家)が官僚的な同僚に言った次の言葉を思い出した。「君は本当に興ざめなやつだな、ハンフリー。君が歩き回ると無気力をかき立てるだけだ」

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