現場が積極的に意思決定を行えば
イノベーションの成功率は高まる

マーサーCEOに聞く 高業績を生む組織の要件(後編)

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人材マネジメントと組織改革で知られるコンサルティング・ファームのマーサー。グローバルCEOのフリオ・ポルタラティン氏に、高業績を収めている組織の要件とは何かを聞いた。前編では、一貫した戦略を持っていること、そしてマトリックス組織から生まれる「健全な緊張」によって、質の高い意思決定を行うことの重要性を語っていただいた。続く後編では、組織としていかに意思決定を素早く行えばよいか、話を伺った。

現場での意思決定が、よりよい意思決定を生み出す

――前回のインタビューでは、マトリックス組織の重要性をお話しされました。マトリックス構造を取り入れることで、コミュニケーション・コストが過大になり、意思決定のスピードが鈍るおそれはないのでしょうか。

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Julio Portalatin
(フリオ・ポルタラティン)
マーサー社長兼CEO。1959年生まれ。ホフストラ大学卒業。オールステート保険を経て、AIGに入社。AIGヨーロッパの社長兼CEOをはじめ、同グループにおける数々の要職を歴任した後、2012年1月より現職。マーサーの親会社であるマーシュ・アンド・マクレナン・カンパニーズの執行役員も務める。

 確かに、最初は時間がかかると思います。しかし慣れてくれば、スピードアップが可能であることも事実でしょう。小さい企業であればマトリックス構造を導入するほどのこともありませんが、グローバル展開するような大企業であれば、ローカルでの意思決定の質が非常に重要になります。機敏性を考えれば、クライアントに最も近い現場で意思決定を行うことが最良です。それをいちいち上層部に上げようとすると、意思決定権者のレイヤーが邪魔をして、かえって時間を無駄にしかねません。最初は面倒なことのように思えますが、慣れてきさえすれば、コミュニケーションのなかで自分の果たすべき責任も明確になり、うまく歯車が回るようになると思います。
 もちろん、常に意見が一致するわけではありません。だからこそ、両者の緊張関係が健全であることが求められます。そして妥結できないのであれば、一つ上の階層に意思決定を委ね、そこで再び健全な緊張関係をつくり出すのです。実際には、意思決定の9割は現場レベルで行われ、残りの1割がそれ以上のレベルでの意思決定事項となっています。そのため、圧倒的に迅速な意思決定が可能となるのです。
 組織が肥大化するほど、迅速な意思決定はますます困難になります。急変する市場に適応するために、リーダーは現場で意思決定ができるような仕組みを整備すべきでしょう。その時、チェック&バランスがどの階層でも働くようにしなければなりません。
 こうした仕組みが生まれれば、従業員自身にとっても、自分とは異なる視点の意見を聞く機会が得られることで、よい学習経験となります。この学習プロセスは日常的に繰り返されるわけですから、次に意思決定の機会が与えられたときには、おのずとよりよい意思決定ができるようになるのです。

――多様性が重視されるのも「健全な緊張関係」が生まれるからでしょうか。

 そう思います。多様性(Diversity)はさまざまな局面で重要な役割を果たすものです。思考の多様性、経験の多様性、才能の多様性はいずれも重要です。常に自分の心をオープンにして、いろんなことを吸収しようとする姿勢が、ダイナミックな意思決定を可能にします。意思決定のプロセスというのは、会議室のなかでのやり取りだけではなく、たとえば隣り合って会話しただけでも進むものです。色々な見解を得れば、よりよい意思決定が下せるようになります。多様性はそのために求められるものです。
 しかしながら、マトリックス組織があれば成功するというものでもありません。組織の戦略はコロコロ変わるものではありません。コア・コンピタンスが変わらなければ、それを軸とした成長戦略が大きく変わることもないでしょう。環境が変わったならば、それに合わせて戦術を変える、すなわち「ピボット」を行うことが重要です。ピボットとは、市場の反応を見ながら市場ニーズに合致するよう、素早く方向転換を繰り返して事業を進めていく手法です。マトリックス組織はピボットが可能な仕組みがあって、初めて機能すると言えます。
 大企業が急激な変化に対応できないのは、いちいち上層の意思決定を待たなくては進められないからです。戦術はローカル・レベルでの成功を収めるためにどんどん変えるべきものです。ローカルで迅速に動いた結果が成功に結び付くのです。ローカルの動きを制限していては、イノベーションも生まれてはきません。

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