「俺のイタリアン」が狙った中間地帯

トレードオフ・マネジメント【第4回】

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企業のトレードオフ・マネジメントに変化をもたらすものは技術や企業のケイパビリティだけではない。企業の競争によってもたらされる需要の側の変化も、トレードオフのマネジメントの方法が変わる契機となりうる。ホテル業界や飲食業界の事例をもとに、成功する二兎戦略について考える。

中間地帯を二兎戦略で攻略する

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淺羽・茂(あさば・しげる) 早稲田大学ビジネススクール教授。 1985年東京大学経済学部卒業。94年東京大学より、博士(経済学)取得。 99年UCLAより、Ph. D(マネジメント)取得。学習院大学経済学部教授を経て、2013年より現職。 主な著書に、『競争と協力の戦略』(有斐閣)、『日本企業の競争原理』(東洋経済新報社)『経営戦略の経済学』(日本評論社)、『ビジネスシステムレボリューション』(NTT出版)、『企業戦略を考える』(日本経済新聞出版社)『企業の経済学』、(日本経済新聞出版社)『経営戦略をつかむ』(有斐閣)

 前回、世の中で利用可能な技術や企業のケイパビリティが、企業のトレードオフのマネジメントの方法に変化(一兎戦略から二兎戦略へ)をもたらす例をいくつか示した。しかし、2つの目的を同時追求する二兎戦略が有効になるのは、技術が変化する場合だけではない。企業の競争によってもたらされる需要の側の変化も、トレードオフのマネジメントの方法が変わる契機となりうる。

 たとえば、ホテル業界では、ある業態(戦略)をめぐって激しい競争が行われていると、そのうち新しい業態(戦略)が生み出され、今度はそれをめぐって再び競争が激しくなるというプロセスが繰り返されてきた。個人旅行者をターゲットにした独立系ラグジュアリー・ホテルの集合体、ザ・リーディングホテルズ・オブ・ザ・ワールドのCEOであるT. テンは、『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』において、ホテル市場の変遷を以下のように説明した(注)。

「ホテルという産業は20世紀、いくつかの大きな節目を経て進化してきた。もともと独立系ホテルが中心だった市場に、ヒルトンやホリデーインがサービスの標準化とチェーン展開で大きな成功を収めた。」「しかし、標準化の流れが定着すると、人々は別のものを求めるようになる。富裕層の増加を背景に、1970年代から80年代にかけて、フォーシーズンズやザ・リッツ・カールトンなどがラグジュアリー・ホテルのチェーン展開を始めた。しかし、チェーン化は標準化をもたらし、どうしてもマス・マーケットに近づくことになる。」「世の中の他のホテルがマス・マーケッティングへの傾斜を強めるほど」個人旅行者を顧客とするザ・リーディングホテルズ・オブ・ザ・ワールドの存在価値が高まるのである。

 ホテル業界には、標準化(コスト)と独自性(高級サービス)のトレードオフがあるようだ。かつては、独立系ホテルが、独自性を追求していた。それに対して、ヒルトンやホリデーインは、標準化を追求するようになった。つまり、独立系ホテルとチェーン展開するホテルは、トレードオフの片方の価値をそれぞれ追求する一兎戦略をとって成長してきたのである。しかし、両者がおのおのの目的を追求すればするほど、激しい競争をすればするほど、高級サービスを提供しながらチェーン化するラグジュアリー・ホテル・チェーンの存在価値が高まった。つまり、ある市場でライバルが2つの戦略グループに分かれ、各々の戦略グループがトレードオフにある2つの価値をそれぞれ追求する一兎戦略をとる。すると、戦略グループ内で激しい競争が繰り広げられ、それぞれのグループが追求する価値が高まっていく。この競争が進めば進むほど、2つの価値の間、つまり2つの価値の適度な組み合わせに対する需要が出現・拡大する。それゆえ、その中間の空白地帯をターゲットとした二兎戦略が有効になるのである。

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