顧客との関係性を再構築する

ブランドの力を最大限発揮するために

1

ラグジュアリー・ブランドにも、手に取りやすいアクセシブル層から、価格低下の圧力が忍び寄っている。さらには、ラグジュアリーに何を求めるかが、消費者の成熟とともに変化しつつある。そこで必要なのは、今一度、顧客との関係性を再構築することだ。本誌プライシング特集関連企画、最終回。


 プレミアムの源泉となる要素をみていくと、つまるところ、ラグジュアリー・ビジネスにおいては、消費者が「コストプラス部分」を企業努力としてきちんと認めている、ということになろう。

ゴヴァース健二氏
(Kenji Govaers)

ベイン・アンド・カンパニー、東京オフィス パートナー 仏ESCP Europe経営学修士課程(MBA)修了。20年以上にわたり、日米欧のラグジュアリー、アパレル、化粧品、食料品といった消費財企業を中心に、企業再建、成長戦略、販売兼物流事業改善、ビジネスモデルの再構築等のプロジェクトを手がける。

「それこそがブランドの力なのです。これが、ノンラグジュアリー・ビジネスにとっての大きな教訓になるのではないでしょうか」とベイン・アンド・カンパニーのゴヴァース健二氏は指摘する。一般消費財の世界では、競争が激しいがゆえに「うちは値段が高いから売れない」「価格を下げることができたらもっと売れるはず」といった弁明のたぐいが見受けられるが、ブランドがあるからといって胡坐をかけるものではない。相応のメッセージやサービスや経験を提供すれば、消費者は価値を認識し、許容するのである――そして、それなりの対価を喜んで支払う。

 もし、ラグジュアリー・ビジネスが消費者の期待から過剰に高価格を得てきたとすれば、そこに旨みを見出す低価格路線の新規参入者によって価格破壊がなされたはずだ。現に、そのような業界はたくさんある。しかし、いまなおラグジュアリー・ビジネスが存続し、市場を拡大しているのは、「価格以外に大きな要因のあるビジネスモデルだということです」。

 それでは、ブランドに対するロイヤリティがプレミアム価格の源泉なのだろうか。あながち、それだけではないだろう。というのも、ブランドを象徴するトップ・デザイナーの引き抜き話は珍しくないし、マネジメント層もマーケターも頻繁に動く(バーバリーのCEOアップルに移籍したのは記憶に新しい)。企業合併、提携がニュースを賑わせ、経営方針が二転三転することも珍しくない。やはり、ブランドネームだけでプレミアム価格が維持できるというのは早計だろう。

 もちろん、いくらラグジュアリー・ビジネスといっても価格低下の圧力とは無縁ではなく、とりわけ前出のブランドのピラミッドでいうアクセシブル層は値崩れが起きやすくなっている。自動車でいえばランボルギーニフェラーリに比べて、大衆車に近いラインは苦戦している。また、「アクセサリーやバッグなどもいつ値崩れが起きても不思議ではない」とゴヴァース氏は指摘する。一部のブランドでは、クラフトマンシップにある種の見切りをつけ、生産拠点をヨーロッパの熟練職人に限定せず、新興国に移しつつあるからだ。もちろん、それなりの技術指導は行うものの、「メイド・イン・××」のタグから受けるイメージは、従来のそれとは異なるだろう。

 この選択は、近年のラグジュアリー・ビジネスが急速に巨大グループ化し、上場していることと無縁ではない。上場すれば当然のごとく、四半期ごとの実績を厳格に求められるようになる。職人不足で売上げを伸ばせないなどという牧歌的な説明では、とうてい株主は納得しない。「そうなると、価格帯の低いアクセシブルの商品が徐々に手作業からロジカルな生産の仕方に変化し、量産につながるようなビジネスモデルに変化していきます。量産すればするほどノンラグジュアリー商品との差別化が図りにくくなり、値崩れが起きやすい環境になってしまうのです」(ゴヴァース氏)。

次のページ  顧客との新たなエンゲージメントの姿»
1
無料プレゼント中! ポーター/ドラッカー/クリステンセン 厳選論文PDF
Special Topics PR
今月のDIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー
最新号のご案内
定期購読
論文オンラインサービス
  • facebook
  • Twitter
  • RSS
DHBR Access Ranking