いかに価値を感じてもらえるか

プレミアム価格を成り立たせるだけの価値を提供する

ラグジュアリー・ビジネスは大きく三層構造に分類され、価格弾力性によってプライシングは大きく異なってくる。しかし、いずれにせよ課題となるのは、いかにプレミアム価格に見合うだけの価値を消費者に感じてもらえるか、である。本誌プライシング特集関連企画、連載第3回。


 ラグジュアリー・ビジネスのプライシングの要諦は、価格ゾーンによって濃淡はあれど、つまるところいかにプレミアム価格に見合うだけの価値を消費者に感じてもらえるかにある。ラグジュアリー・ビジネスに詳しい高倉豊氏(高級時計のウブロタグホイヤーイヴ・サンローラン・パルファンなどの日本における代表取締役を歴任)はこう述べる。

高倉 豊氏
(Yutaka Takakura)

ビジネスコンサルタント
博報堂を経て、パルファム ジバンシー代表取締役、イヴ・サンローラン・パルファン代表取締役社長、タグホイヤー ジャパン代表取締役社長、シスレー ジャパン代表取締役、エスティ・ローダー ダルファン事業部ジェネラルマネージャー、ウブロ ジャパン代表取締役を歴任。2011年より現職。

「ラグジュアリーにとっての適正な価格とは、特殊な材料費や人件費、関税など原価の積み上げもさることながら、競合ブランドの価格帯の影響が大きい」と語る。価格は、ブランド・イメージに強く影響する。ある商品・モデルの価値と、そのブランドのプライス・ポジショニングを示す。

 価格は心理的なものでもあり、いかに価値を感じてもらえるかがカギとなる。たとえば、高級腕時計の世界でいえば、100万円はひとつのボーダーである。「100万円以上のものを買う人にとっては、それが98万円になることにメリットを感じないだけでなく、1つ下のレイヤーの商品だと認識される」と高倉氏は語る。中身はクオーツなのに、なぜプレミアム価格がとれるのか。「高品質、高精度、耐久性は当然のことで差別化にはならない。コレクター(限定モデルなど希少価値を支持する)、投資(値上がりを期待する)、文化(中国やインドなどにおけるゴールド志向)面での購買動機が考えられる」。

 また、同じ価格帯にはさまざまなラグジュアリー・ブランドがひしめきあっている。そのなかでなぜ、このブランド、このモデルを選ぶのか。その主な理由は、ブランドの歴史や世界観、素材の質や希少価値、職人の技巧デザイン、コレクター価値などによる。それゆえに、ブランドのアイデンティティ、コンセプトはなるべく明快でなければならない。毎年のコレクションは出品された洋服そのものを売るのではなく、そのシーズンのそのブランドのテーマやコンセプトを印象付けるものだ。自動車メーカーがあえてスポーツカーを出すのも、それによってあるイメージを訴えかけようとしているからである。現実に買えるものは広告にしない。理想を示すのである。

 しかし、歴史こそがラグジュアリーだといってしまえば身も蓋もない。「高級腕時計業界では後発隊のウブロがラグジュアリーの一角を占めることができたのは、歴史の代わりに訴えられるものを追求したからだ」と高倉氏は語る。フュージョン(異素材融合)を最初に打ち出したのはウブロであり、また、初めてオールブラックモデルを出したときは、そのデザイン性が大きなメッセージとなった。

 マーケティング上は、だれをアイコンとするかがカギとなる。具体的なターゲット層は、国や地域によって多少異なる。富裕層の定義が異なるし、彼ら彼女らの消費の嗜好も異なるからだ。とりわけ、日本のような成熟市場においては、価値観が多様化し、もはや全員ブームになりえない。訴求ポイントをだれに対し、いかに絞り込むか。「ここぞというターゲットに、価値を提案する。キーパーソンたちの評価が、さらに価値を押し上げる。それらをいかに早いスピードで展開するか。それがブランド・ビジネスの面白さだと思う」(高倉氏)。

(つづく)

*次回は6月13日(金)公開予定。

 

【連載バックナンバー】
第1回:何が価格を決めるのか
第2回:ラグジュアリー・ビジネスの市場構造

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