何が価格を決めるのか

決定要因は、費用から顧客の「ウィリングネス・トゥ・ペイ」へ

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あらゆる製品・サービスがグローバル競争の下、コモディティ化の波にさらされており、価格競争圧力は強くなる一方である。翻って、ラグジュアリー・ビジネスは、その長い歴史の中で、プレミアム価格を維持し続けてきた。その歴史と業界構造に触れつつ、付加価値に見合うプライシングについて考えていく(全4回)。


 ラグジュアリー・ビジネスは、その長い歴史の中で、富豪から一般消費者へ、先進国から途上国へと主要顧客がシフトしてもなお、多少景況の余波を受けることもあるが、基本的にプレミアム価格を維持し続けてきた。それはなぜか。「ブランド価値=価格」とするためにどのような施策を打ってきたのか。

 その理由を探る前に、まず前提として、価値と価格の関係を振り返っておいたほうがいいと、阿久津聡氏(一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授)は言う。

阿久津 聡氏
(Satoshi Akutsu)

一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授。一橋大学商学部卒。同大学大学院商学研究科修了。カリフォルニア大学バークレー校ハース経営大学院 MS(経営工学修士)・Ph.D.(経営学博士)。同校研究員、一橋大学商学部専任講師などを経て現職。専門は、マーケティング、消費者心理学、ブランド論、知識経営論、行動経済学、文化心理学。

 そもそも、プライシングとは何か。経済学でいえば、完全競争の下では価格は限界費用と等しくなる。一方、独占や寡占であれば、企業は限界費用を上回る価格付けが可能となり、利益を得る。

 しかし、社会厚生的な観点から言えば、いずれもいわゆるデッドウエイト・ロスが生じ、社会的な損失を被ることになる。前者では企業活動が成り立たず、後者では往々にして価格がつり上がり、欲しい顧客がいても購入できないという事態が生じる。このギャップに着目したのがマイケル・ポーターの戦略論であった。自社のポジショニングを明確にし、参入障壁をつくることで、プレミアム価格をいかに設定するかという視点が生まれたのである。

 競争の圧力を減らし、プレミアム価格を享受するための施策は、ブランド論の大家、デービッド・アーカー(カリフォルニア大学バークレー校ハース経営大学院名誉教授)の伝統的なブランド論にも通じる。ブランドを顧客の心の中につくることができれば「代替不可能」となり、結果としてプレミアム価格を保持できる。戦略論でいう差別化戦略の一つの方法である。

 近年のグローバル競争の激化は、ほとんどの差別化を微細なものとしてしまった。アーカーは、そうした状況では、ブランド・レレバンスで勝負することが重要だと説く。すなわち、既存カテゴリーで自社ブランドを選んでもらうのではなく、自社ブランドが支配する新しいカテゴリーやサブカテゴリーを創造し、それを選んでもらうということだ。いかにしてブランド間の差別化が困難な既存カテゴリーでの競争を避けるかが重要になる。このように、「戦略論とブランド論の共通点は多い」(阿久津教授)。実際にビジネスの現場では、両者を統合して事業を展開している。

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