データ分析ができないなら、
ビッグデータを集めない方がいい

「日本企業はビッグデータの活用に向けて何が足りないのか」(前編)

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2014年5月号の特集は「アナリティクス」。ビッグデータの収集から分析へとステージは移っているが、いまだ積極活用ができている日本企業はまだ少ない。2013年2月号『ビッグデータ競争元年』で日本におけるビッグデータ活用の課題を指摘した、マッキンゼーのポール・マクナーニ氏に、日本のアナリティクスの状況について話を伺った。全2回。
 

右へならえのポイント・プログラムが収益構造を傷める

――最近のビッグデータを取り巻く環境について、どう思われますか。

 小売業界の話になりますが、ビッグデータ分析をしたいと思った時にデータを集めますよね。その時、よくあるのがポイントカードの発行です。ポイント・プログラムには、ポイントを付与することで顧客が頻繁に買い物をしてくれたり、多く買ってくれたりするようになるという直接的な効果と、そうやって蓄積したデータを活用することで品ぞろえを見直したり、価格戦略を考えたりできるという間接的な効果の2つがあります。
 しかし、実際にはデータ分析を行う技術が伴っていないため、多くの場合活用されない情報が溜まるだけのポイント合戦に陥っているのが現状です。この状況は非常に憂慮すべき問題であると考えています。

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Paul McInerney
(ポール・マクナーニ)
マッキンゼー・アンド・カンパニー プリンシパル。京都大学法学部卒業。アジア太平洋地域におけるマーケティング・営業グループのリーダーとして、消費財・小売、家電、通信、メディアなど、さまざまな分野の企業を支援する。特にマルチチャネル戦略、CRM、プライシング、消費者インサイトを重視した製品開発などの領域におけるコンサルティングに従事。日本在住23年。ツイッター:@paulmcinerney

 プロモーション戦略について分析を行った時、興味深い結果を得ました。ポイント・プログラムを導入している企業と導入していない企業を分け、さらに導入企業を、そこから得たデータ活用ができている企業とそうでない企業に分けて、パフォーマンス評価を行いました。その結果、最もパフォーマンスがよかったのは、ポイント・プログラムを導入してデータも活用できている企業だったのですが、データ活用ができていない企業は、ポイント・プログラムを導入していない企業よりもパフォーマンスが劣っていたのです。これはポイント・プログラムが、そこから得られるデータ活用に結び付けられない限りは、企業の経済価値を毀損していることにほかなりません。
 特に日本の食品スーパーなどは、経常利益率が2%~3%と相対的に低い水準です。グローバル小売を見ると、オーストラリアの水準が最も高く、7%近いプレーヤーがいて、イギリスのテスコも直近1年の落ち込みまでは6%前後の水準でした。このなかでポイント発行の全体収益に対するインパクトの度合いはずいぶん違います。安値を売りにするウォルマートはポイント発行もしていません。ポイント原資を出すくらいなら、EDLP(Every Day Low Price)に投資して、顧客のロイヤルティをつくり出すスタンスで、ポイント・プログラムによる顧客のロックインは必要ないのです。逆にデータ活用ができないのにポイント・プログラムにうかつに手を出すと、利益率を下げることにしかなりません。

 

――それはなぜでしょうか。

 ポイント・プログラムの内容が、他社から丸見えになっている点が問題です。たとえば、1997年に消費税が5%に増税されたとき、家電量販店はこぞってポイント合戦を繰り広げました。その結果、いまやポイント還元は10%~15%と高い水準になっています。これは増税というトリガーを迎えて、ここぞというタイミングでポイントを増やすことで顧客を集めようとしたわけですが、競合企業が簡単に真似てしまいました。その結果のポイント合戦となり、2%の増税を吸収した結果で粗利率が2%程度下がっただけでなく、ポイントの上乗せ分として業界全体の粗利率が、結局は2.7%くらい下がってしまったのです。その後もポイントの還元率が変わらないため、利益水準は下がったままとなり、倒産や合併といった業界再編がそのころから発生し始めました。
 航空業界のマイレージも同様です。マイレージ・プログラム自体は、企業にとって大した価値を生み出すわけではなかったのに、取り組まなければ競合に負けてしまうことからマイレージ競争が起こりました。結局プログラムの内容などはほとんど差別化されず、無意味な競争となりました。マイルが溜まっているから、という理由だけでのロックイン効果が多少残っただけです。
 こうした競争は、ベネフィットよりもコストの方がはるかに大きく、業界の収益構造を傷める結果を生み出してしまいました。

――ポイントを与えているのに、顧客にベネフィットを感じてもらえない企業が圧倒的に多いということでしょうか。

 そう思います。企業側も、他社が与えているから、というある種の強迫観念的な理由でポイント・プログラムを導入している場合が多いと思います。そうすると顧客側もポイントがもらえて当然という意識になります。これが業界として非常によくない構造を生み出しています。
 輪をかけてよくないのが、そうした価値毀損のスパイラルが発生することです。価格競争と同じことです。たとえば、5%割引を1ヵ月やったとすると、割引効果で人が集まるため、売上は少し上昇します。しかし2ヵ月連続で行うと、顧客側が慣れてしまって割引効果も半減してしまいます。そうした負のスパイラルが加速することで、企業は割引幅を拡大したり、あるいは突飛な安売り企画を始めたりするのです。

 大手小売店のJCペニーは、その負の連鎖にはまっていました。金曜日の15時15分から15分間、商品4割引というプロモーションをしていましたが、顧客が慣れてしまって大して効果が出ていなかったのです。アップル・ストアを成功させたロン・ジョンソンは、JCペニーのCEOに着任するとこの無駄な割引を廃止しました。実に合理的な話ですが、実際には猛反発を受けて、2年連続で売上が2割減という事態に陥りました。テスコでも2004年に始めた2%のポイント還元率を、2011年に1%に下げたら総スカンを食らいました。還元率を上げた効果はほとんどなかったにも関わらず、です。
 これは中毒症状にも似ています。顧客は与えられたときには喜びますが、与えられ続けるとその喜びはどんどん通常の状態に近づき、特別なものとして見られなくなる。それなのに、与えられたものが奪われることに対しては非常に大きな怒りを顕わにするのです。ポイントを与えることによる効果はさほどないにも関わらず、プログラムを廃止すれば売上が減少し、ブランド・イメージも損なわれる。いい面よりも悪い面が多くある、リスクの高いプロモーション方法なのです。

 

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