未来に熱狂はない:進化の賜物「7つの感情回路」

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「ヒトの感情」というブラック・ボックスは、ヤーク・パンクセップ教授により開けられた。感情を持つ人間がビジネスに蘇る。私たちの感情とは進化の賜物であり、「今を新しく見せる」ことで熱狂は作られる。戦略論のフロンティアを探る好評連載の第5回。

 

根津の三者

 躑躅(ツツジ)の赤に群がった人は絶えた。根津神社の広い境内では、1歳を過ぎた太郎と鳩だけが歩いている。祭りの間は見かけなかった猫も、いつもの場所で目を瞑る。漱石が『猫』を書いた裏手に棲む彼は、「吾輩は」と語り出す言葉は持たぬが、私たちと同じ感情を持っている。

 試みに、太郎と鳩と猫、それぞれの頭に電極を差し込み、特定の部位を刺激してみよう。頭蓋の奥深く、古代の脳に存するSEEKING(ワクワク)回路を刺激すれば、三者三様のやり方で、周りを探索し始める。太郎は人差し指で、鳩は嘴で、猫は鼻を使って境内を嗅ぎ回る。強い多幸感(Euphoria)に目を輝かせながら、他のことは忘れたように探索を続ける。

 次に、刺激する場所を変え、GRIEF(寂しい)回路を刺激すれば、母を呼ぶ声(”Desperation Call”)を上げて、三様の声色で泣き始めるだろう。

 そして、大人である私のGRIEF(寂しい)回路を刺激しても、やはり、声を上げて泣き出したくなる。それを無理に抑え込もうとすれば、喉の奥に物が挟まったようになる。私は経験と知識によって、「身体行動」を無理に抑え込むことは出来る。ただ、沸き起こった強い感情を、自分の意志で無くすことが出来ないのは、他の三者と一般である。

OSはインストール済み

 私たちは、哺乳類と共通の「7つの基本的な感情」を持って生まれてくる。経験によって、悲しみ、怒ることを身に付けるわけではない。

前回紹介したヤーク・パンクセップ教授の言葉を引けば、ヒトは、OS(「7つの感情回路」)がインストールされて生まれてくるのである。外界のインプットをどう処理し、どれをメモリー(可塑性の高い新脳)で記憶すべきかを決定するのは、この生得の感情である。この「7つの感情回路」は長い年月をかけ、サバイバル・ツールとして備わった進化の賜物であり、これを持つ種だけが生き残ってきたのである。だからこそ、感情の力は強く、むしろ支配的でさえある。

 ポスト産業資本主義における戦場は、消費者の頭の中である。そこで支配的な力を持つ感情を知らないのは、的を知らずに射を掛けると一般である。そして的の中心、熱狂(マニア)を生む回路こそ、SEEKING(ワクワク)回路である。電極を差さずにこの回路を刺激し、熱狂を生み出す方法を知っていたのが、キリスト、仏陀などの宗教家であり、伝道者然としたジョブズである。Archaeological Treasure(進化の賜物)とも呼ばれる感情を詳しく知ろう。皆は戦場の地図を持たずに戦っている。

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