デザイン・リサーチとは“Why” を知ること

行動観察のヤン・チップチェイス氏に聞く(前編)

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ノキアの携帯電話は人間の行動観察から得た洞察をもとに開発されているという。同社のデザインセンターで研究者を務めていたヤン・チップチェイス氏は、50ヵ国以上の市場でリサーチを行ってきた。人々の日常に隠されたニーズを読み解く「デザイン・リサーチ」とは一体どのようなものなのか、話を伺った。全2回。

 デザイン・リサーチとは “Why” を知ることである

――デザイン・リサーチの一番の特徴とは何でしょうか。

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Jan Chipchase(ヤン・チップチェイス)
デザイン・コンサルティング・ファームfrogのグローバル市場調査・分析部門で、エグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクターを務める。ノキアの主任科学研究員を経て現職。これまで日本、中国、アフガニスタン、ウガンダ、ブラジルなど世界50カ国以上でリサーチを行ってきた。また、これまで米国のスタンフォードやマサチューセッツ工科大学(MIT)、英国の王立美術大学、インドの国立デザイン研究所などで教鞭をとってきた。2011年にはファスト・カンパニー誌の「ビジネス界でもっともクリエイティブな100人」に選出。2014年にはデザインブランド「Studio D Radiodurans」を発足。日本に10年間滞在した経験を持ち、日本人の妻とアメリカに在住。主著に『サイレント・ニーズ――ありふれた日常に潜む巨大なビジネスチャンスを探る 』(英治出版、2014年)

 一般に行われる定量リサーチは、消費者が何をしているか、あるいはどのようにしているかといった “What” と “How” に焦点をあてています。しかし、デザイン・リサーチはなぜそうするのか、という “Why” を理解するための手法なのです。定量分析からは得難い、定性情報を得るためのリサーチ手法で、人間の行動観察を基本としています。
 原則的にデザイン・リサーチはフィールドワークが中心です。短い時には数時間ということもありますが、我々のやり方では1ヵ月~3ヵ月かけて、現地調査をすることを基本にしています。一定の時間をかけ、現地で生活しながらじっくり観察することで、非常に多くの洞察を得ることができるのです。また、現地で深く調査をすることで、多くの定量調査と異なり、調査サンプルは少数でも十分なのです。
 デザイン・リサーチは、「市場調査」「センス・メーキング」「コンセプトづくり」「デザイン」という4つのステップから成っています。まず調査を行い、入手したデータをどのように解釈するか検討します。そこから得た洞察を基に求められているものが何かを導き、実際のデザインを行うのです。従来の手法では「センス・メーキング」、すなわちデータに対する意味づけが抜けているのです。
 まとめると、デザイン・リサーチは「Whyを知ること」「フィールドワークを原則とすること」「調査対象は少数」「センス・メーキングのプロセスを持つ」という4つの特徴を持っていると言えます。

――“What” と “How” はファクトとして確信が持ちやすいと思いますが、“Why” についてはどのように確証を得ているのでしょうか。

 これは非常に判断が難しい問題でもあります。ただ、こうしたリサーチの原則に収束的妥当性(Convergent Validity)があります。それは同じ目的の調査を何種類も比較して、同じ結果が得られればその結果は正しい、と判断するものです。一つのデータだけを基に判断することはありません。いろいろなソースを参照しながら、さまざまな角度で検証するのです。私たちの目だけでなく、クライアントや現地の方の目を通して見た時にも同じ結果にたどり着くとすれば、それが確証となります。ですから、統計データも重要です。統計データは非常に説得力を持っているので、データの出所が明確で、データに隠された意味を読み取ることができれば、それも十分な裏付けとなります。
 また、コンテクストも重要です。実際の調査で聞いた話ですが、ある村に電気が通るようになりました。村人の女性に、電気が通るようになって何が変わったかと聞いてみましたが、何と答えたと思いますか。なんと、親戚に会いに行くとき、1時間余分に時間がかかるようになったと答えたのです。なぜかと言えば、電気が通ったことでアイロンをかけてから出かけるようになったからです。アイロンをかけた服を着ることは、ブランド物のバッグやカメラなどと同じ、ひとつのステータスシンボルとなるのです。バスに乗る時も、周囲に「あの村は電気が通っている」ということが一目で分かるのです。これは数字からは読み取れない洞察です。

 

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