アメリカで最も優良な「意外な企業」
ファスナルの成功の理由

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1987年のブラックマンデー以降、アメリカで最も優良な銘柄は何か?それは意外な企業だった。『ファストカンパニー』を創刊したウィリアム・テイラーは、成功企業の条件の1つとして「業界内で極端な地位を築くために、大きく賭けること」を挙げる。それは必ずしも規模や市場シェアの最大化ではなく、何であれ他者が真似できない差別化を意味する。


 企業の成功や株式市場に詳しい皆さんに、単純な質問をしたい。1987年のブラックマンデー以降、アメリカで最も優良な銘柄は?

 アップル、マイクロソフト、ウォルマート、バークシャー・ハサウェイと答えたなら、妥当な線だと褒められていいだろう。だが、正解ではない。過去25年間で株価収益率が最も高かったのは、読者のほとんどが(おそらくは)聞いたこともないような企業だ。名前は「ファスナル(Fastenal)」、本社はウィスコンシン州ラクロスから北西に約50㎞、ミシシッピ川に面したミネソタ州ウィノナ(人口約2万8000人)という静かな町にある。

 ファスナルに成功をもたらしているのは、花形産業で利益率が高く最先端の事業なのだろうか。いや、同社はソフトウェアでもヘルスケアでも、航空宇宙事業でもない。ナットとボルトを供給する最大手だ。そう、もしあなたがよくあるネジの緩みに困っているなら、あるいは建設大手や中小の請負業者、個人の住宅所有者で、珍しいナットやボルトを必死で探しているなら、ファスナルこそが頼りになる。

 最近のブルームバーグ・ビジネスウィーク誌の記事によれば、同社は2600の店舗に1万1000人以上の販売員を配置、オンラインカタログは1万700ページに及ぶ(英文記事はこちら)。さらに、建設現場や顧客の所在地には、「完全にカスタマイズされたファスナルの自動店舗」、すなわち、ナットとボルトの自動販売機が5500以上設置されている。こういった圧倒的なリーチは、驚くほどの業績をもたらしている。ビジネスウィーク誌によれば、1987年10月以降の同社の株価上昇率は3万8565%。一方、マイクロソフトは同期間で1万%未満(もちろん、それでもたいしたものだ)、アップルは5500%である。

 ファスナルの成長と発展から、どのような教訓を得られるだろうか。読者のなかには、ハイテク時代にローテク部品が価値を持つという事実に大喜びし、成長企業が必ずしもシリコンバレーなどインターネット企業の聖地を拠点としているわけではない、という認識を新たにする人もいるだろう。しかし、真の教訓はもっと普遍的なものだ。ファスナルの事例が示すのは、「大きく賭けること」と「市場で極端なポジションを確保すること」の威力である。ファスナルは、同業他社よりも多くの実店舗およびバーチャル店舗を展開し、より多くのチャネルを通して、より多様な製品を提供している。

 ファスナルが成功したのは、業界で類のない独自のプレゼンスを築いてきたためだ。創業者のボブ・キアリンは、ビジネスウィーク誌に次のように語っている。「ナットとボルトを売っている会社に投資してほしい、と人々に頼むのはとんでもなく無茶な話でした」。あらゆる製品をあらゆる場所で、あらゆる顧客に売ろうと考えていたのだから、なおさらだ。しかし結局のところ、大きな成功を収めたいなら、少しばかりバカげた存在(nuts)になることが有効なのだ。

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