史実に学ぶためではなく、
思考を鍛えるために読むべき1冊

大の歴史マニアとして知られる、ライフネット生命会長の出口治明氏。近著の『仕事に効く教養としての「世界史」』は、まさに教養とは何か、知性とは何かを教えてくれる珠玉の1冊。


 多くの経営者が「教養」の重要性を口にされます。同じ文脈で、ビジネス書などより古典を読むことこそ、経営者を目指す人に大切とも言われます。

 経営者を目指すなら経営書を読むべき。誰もがそう思うはずですが、実際に企業経営に格闘されている方々の多くが、教養の大切さを口にする。そこには、会話の引き出しという飾り的な意味以上のものを感じざるを得ません。

 ライフネット生命保険会長の出口治明さんは、そんな論者の代表的な方です。自ら多くのビジネス書の著書を持ちながらも「天に唾して言うようだが」と前置きし、時代の評価に耐えて残ってきた古典こそ本物であると語られます。

 出口さんの新著は『仕事に効く教養としての「世界史」』。ご自身、大の歴史マニアとして有名で、これまで読まれた歴史書は5000冊を超えると伺ったこともあります。しかし、歴史書を執筆されたのはこれが初めてではないでしょうか。

 本書の範囲は、日本史でも世界史でもありません。著者曰く、人類の歴史は1つしかないとのことで、本書の構成も学校教育で習った歴史の枠組みで考えると違和感を覚える書き方です。なんせ、冒頭から古代ギリシャの歴史家ヘロドトスの言葉が登場し、その後、日本の奈良時代の話しと唐の武則天とが同じページに出てきて、日本史だけでは分からない、国を超えた時代のつながりが描かれています。そもそも、「国」という概念と「国家」の概念がいかに異なるかを多くの史実から紹介されています。

 圧巻は、宗教の歴史を書かれた第3章、中華思想について書かれた第4章、それにアメリカとフランスの類似性に触れた第9章です。第3章では、人類にとって宗教とは何かを読者に問い正し、第4章では「中国の本来の強さは侵略的なことでなく、むしろ侵略者を全部飲み込んでしまうところ」と中華思想の源泉から洞察されます。そして第9章では、アメリカとフランスの仲の悪さは、近親憎悪的な共通性と斬ります。史実の積み重ねから導かれた大胆な結論には、どれも「なるほど」と唸り、その度にしばらく本を閉じ自分の思考を振り返る。そんな時間が何度も訪れる本でした。知性とは一つ一つの情報をつないで一つの体系を作り上げることであり、読書とは思考を鍛えることであることが実感できます。

 そんな出口さんに先日、弊誌の勉強会に来ていただきました。意思決定について自ら即断即決できるのは、これまでに学んだ蓄積があるからとのことです。つまり問題が生じてから考えるようでは即断できず、問題が生じた際にはすでに答えを引き出しから出してこられる状態であるからこそ即断できるようです。出口さんは自らの蓄積を「腑に落ちた世界観がある」と仰りました。人類の本質や人間社会の本質について自分なりの答えがあれば、ビジネスでの意思決定は簡単であるということ、と自分なりに解釈しました。逆に言うと、意思決定の力を身につけようとしても即効性のあるやり方はないということ。これを希望がないと見るか、すべての経験が意思決定に役立つと考えるかは、人それぞれでしょう。(編集長・岩佐文夫)

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